私はあの日以来、もう絶対に大切なものを増やさないと誓ったのだ。
 
「青花、一緒に写真撮ろう!」
 ツインテールがよく似合う可愛い顔立ちの美香は、明るい笑顔で私に駆け寄ってきた。
 三月の中旬、あくびが出るような長い式が終わり、生徒たちは校門で思い思いに写真を撮っている。
 青い絵の具をそのまま使ったような青空に、桜の花びらがちらほらと咲き始めている。今年は開花時期が早いらしい。
 それをぼんやりと見つめながら棒立ちしていると、私の病気のことなど何も知らない美香は無邪気にスマホを向けてくる。
「桜の花入った方がいいよね、青花こっち来て」
「ふふ、はいはい」
 私はなるべくいつものテンションを保ちながら、美香の要望に応える。
 美香とは同じ吹奏楽部で、厳しい先輩からの指導に一緒に耐え抜いてきた仲間であり、気の合う親友でもある。
「青花と写真撮りたがってる男子、たくさんいるよ」
「ええ、まさか」
「ほら、あそこの二人こっちチラチラ見てんじゃん。意気地なしー」
 たしかにこっちに視線を感じてはいたけれど……。私は笑って誤魔化す。
 中学生になってから急に皆恋バナをし始めて、正直戸惑っている。
 小学校から知っている子がほとんどなので、そんな風に誰かを恋愛対象として見ることなんて考えられなかったし、甘々な少女漫画を読むより、男性向けのゲームをしている方が楽しい。
 ゲームの趣味を女友達に分かってもらえるとは思っていなかったから、私は趣味の話を友達にしたことはなかった。
 たったひとり、親友の美香を除いては。
「本当は青花がバンバン人を撃つゲームばっかりやってるなんて知ったら、驚くだろうなー、あの男子」
「対戦で負ける気がしないね」
「ねぇ青花、高校ばらばらになっても、私たち友達だよね?」
 ふいにそんなことを聞かれ、私は「もちろん」と答える。
 でも、私はこの春から、四季コールドスリープをすることが決まっている。
 メッセージをもらっても、眠っている三ヶ月間は返すことができない。
 美香には、ちゃんと話すべきだろうか。
 まだ自分でも病気のことを受け入れられてなくて、誰にも話せていなかったけれど、打ち明けるなら今しかないかもしれない。
「あのね美香、私、言ってなかったことがあるんだけど」
「えっ、何、かしこまって」