「屋台部分はもうほとんどできてるから、メニューの看板と、屋台名が入ったメインの看板、二つ仕上げちゃおうか。六人だし、ちょうど三、三で分かれてやる感じで」
 クラスでも目立っているリーダー的な存在の男子・桐生が、やることを整理して伝えてくれた。
 爽やかな短髪で目鼻立ちがはっきしりた顔立ちの桐生は、もれなく女子に人気で、俺と何もかも真逆の人間。
 キラキラしたオーラに思わず目を細めていると、彼の指示で皆が持ち場につき始めた。
 俺も資材室から持ってきた画用紙を使って、青花と一緒にメニューの看板を作ろうとした。
 けれど、すっと桐生が青花の隣にやってきて、「あんまり話したことなかったよね」と声をかける。
 青花はカラフルなサインペンを両手いっぱいに持ちながら、「はあ」と気の抜けた返事をした。
「一週間しか起きていられないなんて大変だよな。困ったことあったら何か言って」
「とくに何もないけど、ありがとうございます」
 あっさりとした反応を見せる青花に全く怯まずに、桐生はカラッとした笑顔を見せる。
「はは、なんで敬語? そういうキャラ?」
「いや、だってほぼ初絡みだし……?」
「じつは皆、鶴咲さんと仲良くしたいって言ってるよ。陰で眠り姫って言われてるの知ってる?」
 美男美女が並んでいる様子を見ると、いつまで経っても間に入れそうにない。
 俺は二人を邪魔しないように、繋げた机の上に画用紙を広げて、看板の木枠に合うサイズに紙を切り始める。
「ていうか鶴咲さん。せっかくなんだから敬語やめよ?」
「たしかに、クラスメイトだしね。じゃあ、ちゃっちゃと作業始めよ」
 青花は強引に会話を切り上げて、俺の元へやってくると、「はい」と笑顔でサインペンを渡してくれた。
 意外と人見知りなところがあるのか知らないが、青花は全然桐生に食いついていない。
 向かい側の席に座った青花の隣に、桐生は当然のように腰をかける。そして、全くめげずに青花に話しかけることを再開した。
「鶴咲さんさ、インスタとかやってないの?」
「やってないよ。やってたとしても年に更新できる回数少なすぎでしょ」
「はは、たしかに。なんか、鶴咲さんって面白いね」
「えーそうかな」
 青花は明らかにテキトーに返しながら、鉛筆で下書きを始めた。
 俺も、参考になりそうな画像を検索しながら、別の紙に装飾用のデザインを下書きしていく。