時間が青花を置き去りにしても、寂しくならないようなゲームがいい。
 俺はソースコードを全部消して、最初から構想を練り直すことにした。
 ふと、隣の部屋から物音がしていることに気づく。耳を澄ませると、ノートをめくる音だと分かった。
 早朝の六時だというのに、俊也はもうこんな時間から勉強をしているのか。
 俺は邪魔しないように、静かにキーボードに指を置いた。

 数時間後、いつも通りに登校すると、すっかり忘れていた議題が朝のホームルームで取り上げられた。
「今週末の文化祭の準備だが、出し物のたこ焼き屋の進捗は問題なさそうか?」
 気だるげな教師の言葉に、何人かの生徒が「多分」と曖昧な返事をする。
 それを聞いて、俺はひとり驚いていた。
 完全に忘れていたけれど、土日に文化祭があるのか。
 きっと放課後に何人か集まって準備をしていたのだろうけど、呼ばれていなかった。俺がクラスのグループメッセージに入っていないことに、恐らく誰も気づいていないし、準備に参加していないことも誰も知らなかったのだろう。
 チラッと青花の方を見ると、イヤホンをつけて動画を観ることに夢中になっていて、全く話を聞いていなそうだ。
 青花は日曜日にコールドスリープに入る。前日の土曜日は病院で過ごすから、文化祭には来られないだろうけど……。
「今日は放課後全員残って最後の確認をするように」
 無責任にそう言い残して、教師は教室を出ていった。
 ざわついている生徒の声にようやく反応し、青花は「ん?」と小さく声を漏らしてイヤホンを外す。
「禄、何か先生言ってた?」
 こそっと聞いてくる青花に、俺は苦笑しながら返す。
「放課後、全員居残りして文化祭の準備だって」
「えっ、禄とゲームできないじゃん」
 まずその心配なのか。動揺している青花に、「うちのクラスはたこ焼き屋だって」と情報を追加する。俺もよく把握できていないけれど。
 文句を言っていたはずなのに、青花は「へぇ、たこ焼きかー」とまんざらでもない反応を示した。好物だったのだろうか。
 そうこうしているうちに授業がいつも通り始まり、時間はあっという間に過ぎ去っていった。



 青花と俺は、屋台の装飾班に振り分けられた。
 装飾班は六名で、男女も半々で人数が分かれている。