今まで気づかなかったけれど、つい十五分前に俺は強制的にクラスのグループから退室させられていた。グループトークに木下がアップしていたのは、ひとつの音声データ。
 恐る恐る自ら再生ボタンを押すと、職員室での岡本の怒声が都合よく切り取られた音声が流れた。
 俺は一度も岡本の言いがかりを否定しておらず、まるでカンニング行為を認めたかのような編集をされている。
 まさか、ここまでしてくるとは……。
「伊勢谷も信じたんだ」
「え、いや……」
 絶望に満ちた声でそう言うと、伊勢谷は一瞬ハッとしたような顔になったけれど、俺はもう全部がどうでもよくなった。もしかしたら伊勢谷は信じた訳ではなく、木下に逆らえないだけだったのかもしれないけれど。
 この教室で、俺よりも木下の方が信頼されていた。ただそれだけのこと。
 こそっと聞こえてきた、女子の『でもちょっと分かる』という言葉が、俺の胸に突き刺さった。
 俺ってそこまで、信用ないやつ……?
 たしかに人と話すのが苦手で、友達は少なかったけど、そこまで悪い印象を持たれているとは思わなかった。
 ちらっと教室の奥にいた木下に目線を向けると、事情を知らない生徒が彼の元に集まり、「災難だったな」と言いながら励まして笑っている。
 木下は、教師にも生徒にも好かれていて、見た目もよく、文武両道なリーダー格で、いわゆる〝誰にでも好かれる〟人間だった。
 そうか、俺が信頼されていない訳じゃなく、ただ、木下のパフォーマンスが上手いだけだったんだ。そして、皆がその嘘を簡単に信じている。
 コミュニケーション能力の低い人間は排除される。それだけのことだったんだ。
 途端に、この教室にいる誰も彼もが、まるで宇宙人みたいに思えてきた。
 ……小学生のときから仲良くしてきた、伊勢谷でさえも。
「もういいわ」
 伊勢谷にそれだけ言い放って席に着くと、俺は机に思いきり突っ伏した。
俺は、誰にも信じてもらえない。
 学校なんて、ものすごく小さなコミュニティだと頭では分かっているけれど、半径百メートル程度の範囲で誰にも信用されていないことが、とんでもなくつらい。
 何より、自分が心を許していた人に信じてもらえなかったことが、ショックだった。