鶴咲にそんな友達がいることを知って、なぜか少し嬉しくなっている。同じ処置を受けている者同士しか分かり合えないことが、きっとたくさんあるだろうから。
「二人とも、着いたよ」
 おばあさんに言われて、もう目の前に学校があることに気づいた。
 流れる景色に全く見向きもせず、ずっと鶴咲のくるくる変わる表情を追っていたせいで、気づけなった。
「おばあちゃんありがとうー」
「ありがとうございます」
 バタンとドアを閉めてお礼を伝えると、おばあさんはにこっと目を細めて「今日ははしゃぎすぎないようにね。神代君、青花をよろしくね」と言ってくれた。
 もう授業開始時間ギリギリだったのもあり、校門には誰もいない。
 俺たちはおばあさんの車が発進するまで見送って、まだ足がおぼつかない青花をフォローしながら、ゆっくり教室まで向かった。
 一緒に登校までしたら、またクラスメイトに何かくだらない噂を立てられてしまうだろう。
 でも、もうそんなことはどうでもいい。
「うわっ、校門で銀杏踏んづけたみたい! 最悪ー」
「え、かわいそうに……。本当だ臭い」
「うわー、萎えるー」
「はは、ガチで落ち込んでる」
 下駄箱の前でローファーを掴みながら顔を顰めている鶴咲。
 そんな彼女を見たら、胸の中が一気に温かくなっていくのを感じた。
 自分にとっての彼女は、太陽みたいな存在なのかもしれない。
 そばにいると温かくて、眩しくて、でも絶対に掴めそうにない。そんな存在。
 そんなことを伝えたら、きっと鶴咲は「凍ってるのに太陽って」と言って笑うだろう。
「そうだ! あのね、お願いしたいことがあるんだった」
「え、何?」
 ゲームに関することだろうと思っていたけれど、彼女のお願いは意外なものだった。
「今日から名前で呼んで! 青花って名前、自分でも気に入ってるから」
「え……」
 女子の名前なんて呼び捨てにしたことないんだけど……という感想が思いきり顔に出ていたらしい俺を見て、鶴咲はプッと吹き出す。
「私も禄って呼ぶから! いいでしょ?」
「それは、別にいいけど……」
「ほら、青花って呼んでみて。練習!」
「あ、青花……」
 気恥ずかしさと戦いながらたどたどしく名前を呼ぶと、鶴咲は満足げに笑う。
「禄」
応えるように、名前を読ばれた。少しだけ、心臓がドキッとする。