カプセルの中にもくもくと霧のような煙が現れ、鶴咲の体を包み込んでいく。その煙は数分で消え去り、音もなくゆっくりとカプセルが開いた。
「十分後には目を覚ますでしょう。睡眠ではなく、細胞が停止しているだけで、当人にしてみれば目を閉じただけと変わらないので。しかし、若干体力の衰えはあるので今日明日は激しい運動を避けてください」
 おばあさんにそう伝えると、守倉先生は真向かいで眠る患者さんの元へ向かった。
 カプセル越しではなく、今、目の前で鶴咲が眠っている。
 思わず触れて起こしたくなるのをグッと我慢して、おばあさんと一緒に、ベッドのそばにある椅子に座りながら彼女の目覚めを待つ。
 すると、本当にきっかり十分後に、鶴咲が小さな呻き声とともに静かに瞼を開る。少しずつ顔の血色も戻っていった。
 それはまるで、人形が魔法をかけられて人間になっていくかのような現象だった。
「ん……、眩しい……」
「あ……」
 彼女の第一声を聞いて、思わず感動して声が漏れる。
 よかった。本当に、目を覚ましてくれた……。
 おばあさんも俺と同じように安堵の表情を浮かべており、すぐに彼女のそばに寄り添う。
「青花、どこも痛いところはない? 水飲む?」
「おばあちゃん、毎回泣きそうな顔でどアップなの面白いからやめてよー」
「そりゃそうよ! 本当にお人形さんみたいになっちゃうんだもの……」
「お人形って。もしかしたら黙ってた方がモテるかなー」
「ほら、今日は神代君も来てくれてるよ」
 おばあさんの背後から、ぺこっと頭を下げる。
 俺からしたら三ヶ月ぶりの対面なので、少しだけ気恥ずかしい。
 鶴咲はまだ寝ぼけ眼なのか、ぼーっと俺の顔を眺めて数秒後、ハッとした顔になる。
「えっ、本当に来てくれたの!」
「うん……、おはよう」
「お、おはよう」
 鶴咲も寝起き姿だからなのか、少し恥ずかしげに挨拶を返してきた。
 迎えにいきたいと言ったのは自分なのに、何も気の利いたことを言えなくて情けない。
 でも俺は、金曜日に彼女に伝えたことを思い出した。
『昨日のことのように、今日を覚えておくから』
 そうだ。俺にできることは、彼女の昨日と今日を、繋いであげること。たったそれだけだ。
「鶴咲が好きそうなゲームの新作、たくさんたまってる」
「本当に⁉ やった」
俺の言葉に、鶴咲はパッと顔を明るくさせて、笑顔になる。