セキュリティーにはかなり力をいれているようで、俺も事前に顔写真を送って登録手続きを済ませておいた。
 病室の景色を見て、未来にタイムリープしてしまったのかと一瞬錯覚した。
 コールドスリープの装置が置かれている異質な病室に、ピーピーという無機質な機械音が響いている。病室は四人部屋で、それぞれ薄いカーテンで仕切られており、鶴咲がどこにいるかは分からない。おばあさんが窓際の奥のカーテンを開けると、そこに鶴咲が眠っていた。
「あ……」
 思わず声が漏れた。不謹慎な発言かもしれないけれど、ガラスでできたカプセル型の装置内で眠る寝間着姿の鶴咲は、美しい蝋人形のようだ。
 しっかり瞼を閉じていて、長い睫毛が白い肌で際立って見えている。小さい頃にどこかで見た、寝かせると目を閉じる人形を思い出した。
 それと同時に、本当に彼女が目を覚ますのか一気に不安に駆られてしまった。
 鶴咲がずっと元気に振る舞ってくれているので忘れていたけれど、彼女は闘病中なのだ。治療法が見つからなければ、一年間経っても、たった一ヶ月しか時が進まない。年に十一ヶ月もの間、鶴咲は寝て過ごしているのだ。
「本当に目を覚ましてくれるのかなって、毎回ドキドキしちゃってねぇ……」
 何も言えずに立ち尽くしている俺に、おばあさんはそっと話しかけてくれた。眉をハの字に下げて笑いながら、そっとガラスに手を添えて鶴咲の寝顔を見ている。
 沈黙したまま鶴咲の目覚めを待っていると、ガラッと扉が開いて、四、五十代前後の渋いお医者さんが看護師さんと一緒に入って来た。
「守倉先生、よろしくお願いいたします」
「鶴咲さん、おはようございます」
 低い落ち着いた声でおばあさんにぺこっと挨拶を返すと、その守倉先生というお医者さんは、チラッと俺の方を見た。
 鋭い眼光に一瞬ドキッとしたけれど、俺も頭を下げる。
「青花さんのご親戚ですか?」
「いや、俺はただのクラスメイトで……。神代って言います」
「そうでしたか、失礼しました」
 俺の回答に少し驚いた表情をした守倉先生。その反応から察するに、血縁者以外の人間がこの病室に足を運び入れたのは初めてだったんだろう。
「解凍作業に入ります」
 看護師さんの言葉に、思わず眉を顰める。人の体なのに、〝解凍〟だなんて、違和感のある言葉だ。でも、これ以外の言葉はきっとないのだろう。