「大切な人と同じ時間を過ごさずに、本当にこれでいいのかと。眠れば眠るほど、周りの人との肉体的年齢差は開いていくからね」
 その言葉に、私は思わず口をつぐんだ。
 一応、誕生日が来たら一歳年を取ることにはなっているけれど、細胞まで凍結して成長を止めているので、見た目はこのまま。
 たしかに、もし恋人ができたりしたら、迷いが生じたりするのかな……。
「これが本当の、永遠の十七歳ってやつ?」
「昭和アイドルみたいな言い回しをよく知ってるな」
 おどけて答える私を見て苦笑する守倉先生。
 私は、明るく振る舞うことを最後まで努めて、診察室をあとにした。
 バタンと扉を閉めてすぐ、なぜか頭の中に神代君の顔が浮かぶ。
 長い前髪に、一重の目、少しも日焼けしていない白い肌。
 目を合わせようとすると、すぐにおどおどして目をそらす。声も小さいから近寄らないと聞こえない。
 でも、私がゲームで焦ったり慌てたりすると、すごくゆっくり優しく話してくれる。逆に、私を本気で心配するときは、早口で大声になる。
 それから、華奢に見えるけど、コントローラーを握る手は、私よりずっと大きくて、そのことに気づいたときなぜかドキッとしたんだ。
 ――どうしてそんなことを、今思い出してしまったんだろう。
 私が寝ている間に、神代君に好きな人ができたらどうしよう。
 つらくならないように、何も期待せずに、生きてきたのに。
「ダメじゃん、私……」
 つぶやいた声は、真っ白な病室に寂しく響いていった。
 大切なものをこれ以上増やさないようにしたいのに、次に目が覚めたときには、彼がそばにいてくれる。
 そのことが、どうしようもなく嬉しいだなんて。