「鶴咲さん、お時間ですよー。板野さんはその次ね」
 看護師さんにドア付近から呼ばれ、二人そろって「はーい」と返事をする。
 病室を出てからも、頭の中は、〝手作りゲーム〟のことでいっぱいだった。
 クオリティーが高いものが作れるかどうかは全く自信はないけれど、でもたしかに、神代君が喜んでくれそうなのは〝今までやったことのないゲーム〟くらいしか思いつかないな。
 大したものは絶対に作れないけど、自分が作ったゲームをプレゼントするのは、ありなのかもしれない。
だって、大好きなゲーム実況者に自作のゲームをプレイしてもらえたら、自分へのプレゼントにもなるし……なんて。
 彼が楽し気にプレイしてくれる姿を想像したら、自然とニヤけていた。

「どこか体調が悪いところはないですか」
 綺麗な灰色の髪をした、四角い眼鏡の似合う守倉先生は、私のカルテを見ながらいくつか質問をしてきた。
 私は「元気です」と返し、とくに気になることはないと伝える。
 守倉先生は眼鏡をくいっと上げてから、椅子ごと回転して私の方を向いた。
「次に起きるのは十月三日になるけど、とくに日程の変更の希望もない?」
「はい、大丈夫です」
「……学校に通ってると聞いたけど、学校生活はどう?」
 現実世界との時間経過のギャップに苦しんでいる患者は多い。
 だから先生も、その辺をとても気にして、こうしてひとりひとりに面談時間を設けてくれているのだろう。
「学校、友達ができたので楽しいです」
 そう言うと、守倉先生は「そうか」と言って静かに目を細める。
 そうして私の目の前にA3サイズの紙を置いて、ボールペンを渡した。
 これは、コールドスリープをする前に毎回書いている同意書。
 そこには、この処置ならではのルールがいろいろと書かれている。
 ずらっと並ぶ小さい字をほとんど読み飛ばして、父親が既にサインしている横に、同じようにフルネームでサインをする。
「先生、いつも思うんですけど、眠っている間に他人が勝手に起こしたら罰せられるって、すごいですよね」
 先生に同意書を渡しながらそんな感想を伝えると、先生は難しそうな顔をする。
 あれ、もしかして面倒なこと聞いちゃったかな……?
「もちろん自然災害があったときは緊急解除する。だけど、私情でむやみに起こされたりしたら、体への負担も大きいし、迷いも出るだろう」
「迷い……?」