最初はこの装置に入ることが少し怖かったけれど、今はもうただ眠るように目を閉じるだけ。結衣みたいに、同じ処置を受ける人とは顔見知りにもなったし、他愛のない会話をして互いにリラックスできるように過ごすこともあった。
 ちなみに、おばあちゃんとは病院の食堂でお昼ご飯を一緒に食べて、さっき別れたところ。お父さんはいつも仕事が忙しく、見送りにもお迎えにも来ない。
「青花ちゃん、一緒にゲームやろうよー」
「やったー、ねぇねぇ、もう〝猫と魔女の森〟のアップデート版やった?」
 結衣も私と同じゲーム好きで、いつも眠るまでの間ゲームをしまくっている。
 彼女のベッドに座って、猫背になりながら一緒にゲームに没頭していると、結衣が私をにこにこしながら見ていることに気づいた。
「青花ちゃん、いいことあった? 何か嬉しそう」
「えっ、嘘、変な顔してた?」
「ふふ。ううん、可愛い顔してる」
 彼女は私と正反対な、おっとりとした性格で、いつも口に手を当てて静かに笑う。
 自分がどんな顔をしていたのか気になり恥ずかしくなったけど、彼女には嘘をつかずに全部話そうと思えた。
「ゲーム配信者の師走っているじゃない?」
「うん、最近人気だよね」
「じつは彼と同じ高校で、友達になったんだよね」
「え! 私さっき配信動画観てたよ! どんな人だった? イケメン?」
 珍しく興奮した様子で食い気味に質問してくる結衣。
 私は脳内で神代君をイメージしながら、「うーん、イケメンかどうかは分からないけど、背は高い」とだけ返す。
 すると彼女は「青花ちゃん理想高いからなー」と笑う。
 本当に、彼と出会えたことは、今まで生きてきた中で一番の奇跡だ。
「性格はどんな感じなの? 優しい? クール系?」
「動画のイメージ通り、ちょっと人見知りだけど、でも優しい人。ゲームで困ってると絶対助けてくれる」
「一緒にプレイしたの……? なんかそれ、すごいね」
 目を丸くしている結衣を見ていたら、たしかにすごい体験をしていると実感した。
彼と出会ってから、本当に次目覚める日が待ち遠しくなってしまった。
 今までただ義務的に起こされていた感覚なのに、不思議だ。
『誰かの人生を否定しないと、自分の人生に満足感を得られないんだ?』