……言葉だけでは伝わらない何かを、伝えようとして。
「待ってるよ。昨日のことのように、今日を覚えておくから」
 真剣な声で伝えると、鶴咲は「はは」と小さく笑ってから、すっと俺に小指を差し出す。
「十月三日、守倉病院二〇三号室、朝七時集合。約束だよ」
「えっ、ちょっと待ってメモるから」
「いいから、指切りして」
 日時や場所を忘れないように脳内再生しながら、俺は彼女の細い小指に自分の指を絡めた。
 鶴咲は「指切りげんまん」と言って、小指で力強く俺の小指を握る。
 そして、「指切った」というところまで歌い終えてから、勢いよく指を離した。
「じゃあまた、秋にね」
「……うん、また」
 夏の風を切るように、鶴咲は小走りで家へと帰っていく。
 小指に残る体温を感じながら、今日がもう金曜日であることを、心から切なく思った。
 彼女が起きている一週間が、ずっと終わらなければいいのに。
 そんなことを、彼女のうしろ姿を見ながら願っていた。
 また、来週から君は、当たり前のように教室にいないんだ。