「おい木下、いきなり絡むのやめろよー。彼女さん?もびっくりしてんじゃん」
「初めましてー、俺たち神代君と同じ中学でー」
 まさか、こんな時間にこんなところで再会するだなんて……。最悪だ。予備校帰りか部活帰りだろうか。
 明らかに彼女ではないと分かっていても茶化してくる三人。中学でもこういう絡み方を鬱陶しいくらいしてくるやつらだった。
 とくに、ひときわ容姿の整っている茶髪の木下は、受験のストレスを俺にぶつけることを楽しみにしていた。こいつとは、嫌な思い出しかない。
 廊下ですれ違う瞬間に腹にパンチされたり、テスト中に椅子を蹴られたり、根も葉もない噂を流されたり。
 木下は暴力を振るうたびによく言っていた。
『お前、なんかムカつくんだよ』と。
 一切思い出したくない記憶が蘇り、軽い吐き気に襲われる。
「ゲームオタクの神代君、なんでそんな素っ気ない反応な訳?」
 ニヤニヤとした視線を向けられ、俺は心底腹が立っていた。
 こいつらの、〝人を見下した目線〟は、なんでこうもバカみたいに分かりやすいのだろう。
 まるで〝バカにしてます〟と、顔に書いてあるみたいだ。
「神代君、この人たちお友達なの?」
 鶴咲の言葉に、俺は無言で首を横に振る。
「いいよ、もう行こう」
 低い声でそう返し、この場を離れようとすると、木下が驚きの声を上げた。
「え、否定しないってことは本当に付き合ってんの? お前がその子と?」
 俺がこんな美少女と付き合っているなんてありえないと、言いたいのだろう。
 まあ、本当にそんな仲ではないけれど。
 無視して歩みを進めていたが、鶴咲は突然ピタッと足を止めた。
「ねぇ、全部悪意伝わってないと思って言ってんの? それとも悪意が分かるように言ってんの?」
 ブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、鶴咲は挑発的にそんなことを問いかける。
 何を言いだすのかと焦って止めようとしたが、鶴咲は怒っている口調でもなく、本当に訊きたいから訊いている、という感じだった。
「相手にどうせ伝わらないと思って言ってる嫌味って、一〇〇パーセント相手に伝わってるよ。赤の他人の私でも、あなたたちが嫌な人だって分かったもん」
「は、はあ……?」
 鶴咲のとんでもない発言に、木下は顔を真っ赤にしている。ほかの二人も、思いきり顔を顰めて鶴咲を睨んでいる。