慣れないことをして顔を赤くしながらぼそっとつぶやいた俺の言葉に、鶴咲は目を真ん丸にさせている。
 俺はそのまま二つのアイスをレジに持って行って、会計を済ませた。
 俺の行動の意味を理解した鶴咲は、「それはまずい!」と慌てだし、アイスの代わりに俺がいつも飲んでいるジュースを買ってくれた。
 コンビニの外に出ると、たしかに夕方でもむわっとした気温のままで不快だ。
 買ったアイスをすぐに開けて、俺はミルクアイスから、鶴咲はシャーベットから食べ始める。
 冷たい感覚が喉元を通り過ぎて、涼しくなった気がしてくる。
「はーっ、どっちも食べたかったから嬉しいー。ありがとうー!」
「……よかったね、悔いが残らなくて」
「ほんと。歯を食いしばりながら眠るところだった!」
 真顔でそんなことを言う鶴咲に、思わずふっと笑みがこぼれる。
 すると、少しだけ笑った俺を見て、鶴咲が「神のスマイル、レア!」と言ってきた。
 別に俺だって面白ければ笑うけど……。
「そういえば、昨日教えてもらったランゲーム、スコア一万まで言ったよ!」
「え、ほんとに? さすがだな……」
 アプリで確認すると、たしかにランキング上位に〝aoca〟というユーザーがランクインしていた。結構な難易度のはずなのに、一日でここまでハマってくれたことが嬉しい。
 鶴咲は親指をぐっと俺に向けて、ドヤ顔で自慢をしてきた。
「授業中もずっとやってたからね」
「ええ、怒られても知らないよ」
「今晩は、たまってる師走の配信動画もちゃんと観るからね」
「顔知られてるのに観られるの、やっぱ恥ずかしいな……」
 駅前を歩きながらそんな他愛もないゲームの話をしていたそのとき、ふと横から嫌な視線を感じた。
 ドクン、と大きく心臓が跳ねる。
 視界の端に映った制服を見て、とっさに早歩きで通り過ぎようとしたけれど、それは無駄に終わった。
「おい、あれ神代じゃね?」
 鼻にかかったような少し高い声。
 顔を上げなくてもすぐに相手が誰だか分かった。
 緑色の学ランという独特な制服の高校は、この辺ではひとつしかない。
 M学園の男子生徒三人が、俺を指さして半笑いで立ち止まっている。
 一メートル以内の距離まで近づかれ、思わず身構えると、隣にいた鶴咲もただならぬ空気を感じたのか、緊張感を漂わせている。
「元気してた? ていうか、まさか彼女さんっすか?」