「やったー! おばあちゃんの料理は最高に美味しいから食べてってよ!」
 鶴咲に押し通され、何と夕飯も一緒に食べることになった。
 一階に下りてリビングへ向かうと、そこには美味しそうなビーフシチューが並んでいた。
こんなレストラン級の食事が家庭で出てくるなんて……と衝撃を受ける。
ダイニングチェアに座ると、鶴咲が早々に両手を合わせて「いただきます」と声を上げる。俺も同じように手を合わせ、料理を口に運ぶ。
「お口に合うかしら」
 おばあさんの言葉に、俺はこくこくと頷く。本当に美味しい。
「こんな料理、家で食べたことありません……。だいたいお惣菜なんで」
「谷中商店街があるものねぇ。いっぱい美味しいおかずがあるから、私もしょっちゅう利用してるわよ」
 多分俺の家に出ているのは、スーパーの冷えきった残り物だけど……とは言わずに、苦笑いを返す。
 鶴咲もなぜかすごく嬉しそうで、「どんどん食べて!」と張りきっていた。

そうしてお腹も満たされ、やっと帰る流れになると、鶴咲は「私もアイス食べたいからついでに送ろうかな」と言いだしたので、今俺たちは駅近くのコンビニへと向かっている。
 夜になっても暑さはおさまらなくて、生ぬるい風を運んでくる。
 クーラーの効いたコンビニに小走りで入ると、鶴咲は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「うわー、ありすぎて選べない!」
 クーラーボックスに並ぶアイスを前に、鶴咲は眉間に皺を寄せながら真剣にアイス選びを開始。
「そんなに悩むことか……?」
 俺はいつも変わらずコーヒー味のアイスを買うことに決めているので、すんなりとレジに向かおうとしたが、鶴咲は俺に二つのアイスを指さしてどちらがよさそうか助言を求めてくる。
 ひとつは柚シャーベットで、もうひとつはさっぱり系のミルクアイス。
 全く相反する二つで迷っているようだ。
「よくアイスごときでそんなに迷えるね」
「だって! どっちも期間限定なんだもん、今食べないと一生食べられない!」
「……なるほど。それは深刻だ」
 そうか、鶴咲にとってはこのアイスひとつですら一期一会で、大切に選ばないといけないことなんだ。
 そう思うと、俺は勝手にその二つのアイスに手が伸びて、気づいたら自分がいつも買っているコーヒーアイスを元の場所に戻していた。
「……飽きたら交換してくれればいいから」
「えっ、え?」