鶴咲は、ざわつく声をスルーして窓際の席――俺の左隣の席に着くと、早々にバッグからスマホを取ってワイヤレスイヤホンを耳にはめた。
そんな彼女を見て、生徒同士がひそひそと話す声が、微かに聞こえてくる。
「年に四週間しか目を覚まさないって、どんな感じなんだろ……?」
「誰か話しかけてみてほしいけど、隣はあの神代かあ……。話しかけなさそー」
「私、本物のコールドスリーパーに会ったの初めて」
皆、コールドスリープについて興味津々なようだが、じつは俺はずっと別なことでどぎまぎしていた。
『趣味は〝師走〟のゲーム実況を観ることです』
まさか俺のニッチなゲーム実況チャンネルを知ってるやつがいるだなんて、心臓が飛び出るほど驚いた。チャンネル登録者数十万人とはいえ、こんなに身近に視聴者が存在するとは。
しかも、今彼女が隣で観ている動画は、間違いなく俺のゲームの動画だ。知人のイラストレーターが好意で描いてくれたイラストのアイコンが、ちらっと見えたから分かる。
あのアイコンの絵と現実の俺とで一緒なのは、重苦しい長い前髪という特徴だけで、あとはかなり美化されている。
初めはこんなアイコンを使うことに対して恥ずかしさがあったが、せっかく描いてもらった手前、無下にする訳にもいかず、そうこうしているうちに登録者数が増えていったのだ。
顔出しは一切せず、手元だけ映しているので、周囲にバレることはまずない。
けれど、隣でまじまじと自分の動画を観られると、必要以上に緊張してしまう。
もし彼女に、その投稿者は俺だと言ったら、いったいどんな反応をするだろうか。
なんてバカなことを妄想しているうちに、ざわついていた生徒のほとんどは一限目の教室に移動し始めていた。
何人かが鶴咲に「移動だよ」と声をかけていたが、彼女はそれに気づくことなく、動画に夢中だ。
教えてあげるべきなのは、隣席である俺なのだろう。
しかし、朝から一言も声を発していなかったせいで、どのくらいのボリュームで人に話しかけたらいいのか喉が忘れている。
「一限、教室移動だけど」
恐る恐る話しかけてみるも、彼女はイヤホンをしているので気づかない。
自分の実況の声に掻き消されて気づいてもらえないだなんて、シュールすぎる。
そんな彼女を見て、生徒同士がひそひそと話す声が、微かに聞こえてくる。
「年に四週間しか目を覚まさないって、どんな感じなんだろ……?」
「誰か話しかけてみてほしいけど、隣はあの神代かあ……。話しかけなさそー」
「私、本物のコールドスリーパーに会ったの初めて」
皆、コールドスリープについて興味津々なようだが、じつは俺はずっと別なことでどぎまぎしていた。
『趣味は〝師走〟のゲーム実況を観ることです』
まさか俺のニッチなゲーム実況チャンネルを知ってるやつがいるだなんて、心臓が飛び出るほど驚いた。チャンネル登録者数十万人とはいえ、こんなに身近に視聴者が存在するとは。
しかも、今彼女が隣で観ている動画は、間違いなく俺のゲームの動画だ。知人のイラストレーターが好意で描いてくれたイラストのアイコンが、ちらっと見えたから分かる。
あのアイコンの絵と現実の俺とで一緒なのは、重苦しい長い前髪という特徴だけで、あとはかなり美化されている。
初めはこんなアイコンを使うことに対して恥ずかしさがあったが、せっかく描いてもらった手前、無下にする訳にもいかず、そうこうしているうちに登録者数が増えていったのだ。
顔出しは一切せず、手元だけ映しているので、周囲にバレることはまずない。
けれど、隣でまじまじと自分の動画を観られると、必要以上に緊張してしまう。
もし彼女に、その投稿者は俺だと言ったら、いったいどんな反応をするだろうか。
なんてバカなことを妄想しているうちに、ざわついていた生徒のほとんどは一限目の教室に移動し始めていた。
何人かが鶴咲に「移動だよ」と声をかけていたが、彼女はそれに気づくことなく、動画に夢中だ。
教えてあげるべきなのは、隣席である俺なのだろう。
しかし、朝から一言も声を発していなかったせいで、どのくらいのボリュームで人に話しかけたらいいのか喉が忘れている。
「一限、教室移動だけど」
恐る恐る話しかけてみるも、彼女はイヤホンをしているので気づかない。
自分の実況の声に掻き消されて気づいてもらえないだなんて、シュールすぎる。