なぜか命令口調の鶴咲に、わずかに苦笑が漏れる。
 新作のゲームは、あれから少し改良を重ね、じつはもうリリースした。
 猫が主役の、ありきたりで単純なランゲームだけど、猫のイラストが可愛かったお陰かアプリでの初日ダウンロード数はそこそこいった。
 とはいっても、完成度がそこまで高くないので一瞬教えることをためらったが、彼女が意地でも聞き出してくることを考えて、諦めてゲーム名を教える。
 すると、すぐに返信がきた。
【もうできてたの⁉ すごい猫可愛い! 明日やりまーす。じゃ、おやすみ】
 聞きたいことだけ聞き出しておいてすぐ寝る鶴咲。
 その勝手な性格に若干呆れたけれど、嫌な気はしない。
 思ってること、感じてることが顔にも文にも素直に表れる鶴咲といることは、思いのほか楽だった。
 俊也の発言で乱れた心が、鶴咲の簡素なメッセージひとつで、簡単に落ち着いていく。
 自分は意外と単純な人間なんだと、彼女と会ってから何度も思い知らされている。
 向き合いたくない過去に蓋をするように、俺は布団を顔までかぶって、暗闇の中でゲームをしていた。



 あっという間に時間が過ぎて、もう金曜日になってしまった。
 鶴咲と学校で待ち合わせをするのは恥ずかしいと思っていた俺も、だんだんと周りの視線がどうでもよくなり、今では一緒に帰ることも自然になっている。
「早く行こう、神代君!」
「走ったら心臓に悪いよ」
「このくらい大丈夫!」
 今日もホームルームが終わったあと、二人でダッシュで教室を出て駅まで向かい、鶴咲の家で新作ゲームに明け暮れた。
 小学生の頃に好きだった格闘ゲームの復刻版が出たので、今日はそのゲームをやることに。
「うわー、懐かしいー!」
「小二の頃に流行ったよね。結構覚えてるわ」
「技のコマンド思い出さなきゃ!」
 鶴咲にはお気に入りのプロレスラー設定のキャラがいて、ずっとそのキャラを使い続けて、二勝十敗。悔しそうにコントローラーを握り締めていたけれど、終始ずっと楽しそうだった。
 そんな風に一緒にゲームをしていると、時刻は十九時過ぎに。
 もうそろそろ帰らないと……と思ったところで、ドアのノック音が響いた。
「神代君、よかったら夕飯食べていったらどう? ちょうど今できたのよ」
「えっ、いやそんな申し訳ないんで……」