母親に『行けそうにない』とだけ伝えて、一ランク下の今の私立高校にシフトチェンジしたのだ。本当はテキトーな公立でもよかったけれど、偏差値をやたらと気にする母親に強引に指定され、受験した。
 俊也は中学生になった瞬間から高校受験を意識しており、必ずM学園に行くと豪語していた。
 友達も多く、運動能力もコミュニケーション能力も長けていて、俺が持っていないものを全て持っているというのに、こいつは勉強だけ上手くいかないことが不満らしい。
「ちげぇよ、勝手に妄想してんな」
 何もかも俺に勝たないと気が済まないのだろう。そう思いながら、呆れた調子で返した。
 すると、俊也は俺を睨みつけ言い放つ。
「お前が塾代無駄に使ったせいで、こっちはM学園に受かっても行かせられるか危ういって昨日言われたよ……。もしそうなったら、死ぬまで恨んでやるからな」
 たしかにうちは中流家庭で、都内に住みながら兄弟二人を楽に私立高校に行かせるお金はないだろう。親も、俺の中学時の成績に舞い上がり、あと先考えずに教育費をつぎ込んでしまったのかもしれない。
 俺がM学園に行かないと言ってから、明らかに家庭の空気は悪くなった。それに関しては、全く返す言葉もなく、ただ沈黙するしかなかった。
「お前のそういう、恵まれた環境でもできることやらねぇ性格、心底嫌いだよ」
 俊也は黙っている俺に言い捨てて、バタン!という音とともに部屋を去り、俺は言い放たれた言葉に真っ向からダメージを食らっていた。
 できることをやらない性格、というのは、当たっているようで当たっていない。
 俺はもう、〝自分が何をできるかどうか〟なんて希望的な目線で人生を歩んでいないから。
 趣味のゲーム以外、何をやったって無駄。本当は、ゲームプログラマーにもなれやしないとどこかで感じている。
 俺が俺である限り、何も上手くいきっこない。
 でもそれが苦しいなんて、思ったことはない。
 俺は少し折れ曲がった参考書を拾って、近くにあった空っぽのゴミ箱にそのまま投げ捨てる。
「思い出したくもないことばっかだな……」
 ぼそっと一言つぶやいてから、俺は再びゲームに集中しようと努める。
 枕元に置いていたスマホがブブッと震えたので手に取ると、鶴咲からメッセージが届いていた。
【そういえば、新作ゲームはいつ頃できそうなの? 教えなさい】