クラスメイトの声に紛れ、聞こえるか聞こえないか微妙な音量。
 俺はハッとして、思わず口を手で押さえた。
 そんな俺を見て、鶴咲は目をぱちくりとしばたたかせている。
「話しかけても、よかったの……?」
「え……?」
 返ってきたのは、予想外の言葉。
しかし、鶴咲も俺と同じように驚いた表情をしている。
 初めは目を見開いていた彼女だけど、だんだんと安堵した表情になっていく。
「私にとって三ヶ月前のことは昨日のことだけど、神代君にとってはそうじゃないからさ。話しかけていいのか分からなかった。……ほ、ほら、高校生って多感?な時期だし、毎日目まぐるしいでしょ!」
 焦ったような口調で、話しかけなかった理由を口にする鶴咲。
 まさか、そんなことを思っていただなんて。
 いつもそんなことを気遣いながら、世界と距離を取っているんだろうか。
 胸の一部がぎゅっと苦しくなり、俺は唇を噛み締めた。
「俺にとっても昨日のことのようだよ。友達少ないから、毎日が薄いし」
 自虐も交えてぼそっとそう返すと、鶴咲はようやく笑顔を見せてくれた。
「あはは、神がぼっちでよかった」
「だから神って言い方、やめてって」
 鶴咲の笑顔を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
 よかった。あの日々を忘れられていた訳ではなかった。
 忘れられることが怖いのは、きっと俺の方だ。
「今日もゲーム、する?」
 ぼそっと問いかけると、鶴咲はパッと表情を明るくして大きく頷く。
「する! そういえば、新作ゲームはできた?」
「いや、あともう少しかな……」
 ゲーム制作のことを気にかけてくれていることが嬉しくて、俺はバレないようにニヤつく。
 本当はもうできているんだけど、鶴咲に教えるまでにあと少しだけ改良したい。
「そっか、できたら絶対教えてね! 今日はたまってる新作ゲームやろうか!」
 この三ヶ月の間に、たしかに鶴咲が好きそうなゲームの新作が何本か出ている。
 俺はその全部を彼女に教えてあげたくて、胸が昂った。
 彼女が止まっていた時間の中で起きたことを、できれば、俺が全部聞かせてあげたいと思ったんだ。



 鶴咲が眠るまであと五日。
 月曜と火曜は更新されたゲームの話をしてしまったから、明日はどんな話をしよう。
 豪邸から庶民的な中古の一軒家に帰宅した俺は、自分の部屋で寝っ転がりながらアプリゲームを操作していた。