最初は完全な勝ち組じゃん、と思ったけれど、彼女の後半の言葉にどう返していいのか分からなくなった。
 それに、忘れかけていたけれど、彼女は闘病中なのだ。
 鶴咲のあっけらかんとした明るさからは、誰も彼女が抱えているものなんて想像もつかないだろう。
「おばあちゃーん、友達連れてきたー」
 家にお邪魔する決意も固まりきらぬまま案内されてしまい、俺は慌ててぺこぺこと頭を下げる。
「お、お邪魔しますっ……」
「まあ、まあまあまあ、いらっしゃいませ」
 広い玄関に小走りで現れたのは、紺色のゆったりとしたカーディガンを纏った、上品なおばあさんだった。
 小柄なおばあさんは俺を見るなりぱあっと顔を明るくさせて、すぐにスリッパを出してくれた。
「青花がお友達連れてくるだなんて、何年ぶりかしら。やっぱり学校に行ってよかったわねぇ」
「そうだね、今日ばかりは行ってよかったわ。おばあちゃん、冷蔵庫のジュース持っていっていい?」
「もちろんよ。ケーキもあるから食べなさい」
 どうやら優しそうなおばあさんは俺のことを歓迎してくれているみたいで、ひとまずほっとする。
 無垢材の床、吹き抜けのリビング、ところどころに飾られている高そうな絵画と観葉植物。俺の超一般的な家とは大違いなおしゃれな造りに、緊張してしまう。
 きょろきょろと不審な動きをしていると、瓶ジュースを持った鶴咲に「二階! 私の部屋」と言われた。
 リビングで遊ぶのではなく、いきなり女子の部屋に直行なのか……。
 俺はロボットみたいにぎこちない足取りで、これまたおしゃれな螺旋階段を上る。
 しかしそんな緊張は、ドアを開けた瞬間に一気に消え去った。
「ようこそ、わが基地へ」
「うわ、漫画の数すご……」
 女子の部屋なんて入ったことがないのでよく分からないけれど、鶴咲の部屋はなんというか、男子高校生の部屋と言われても納得するような感じだった。
 壁一面にはびっしりと少年漫画が配置されており、窓際にはがっつりゲーミングパソコンと黒いゲーミングチェアが置いてある。
 マイクのついたヘッドホンも置いてあり、オンライン対戦もこなしている様子がありありと分かった。
 ベッドカバーは薄い水色で、カーテンは白。下に敷いてあるピンク色の丸いラグは、某ゲームの有名キャラクターの顔だった。