「青花」
それから、名前を優しく呼ばれ、ふいにキスをされた。
それは本当に一瞬の出来事で、ぽかんと口を丸く開けて驚いている私を見て、禄も少しだけ顔を赤らめている。
「ごめん、いきなり」
「う、ううん……! 全然、いいよ」
どうしよう、心臓を労わらなきゃいけないのに、初めて禄からキスをされて、激しくドキドキしている。私はぶんぶんと手を横に振って取り繕い、なんとか動揺していることを悟られないようにした。
甘酸っぱい空気が充満している部屋の中に、窓の隙間から、桜の花びらが入り込んできた。
「あ、禄、また桜が!」
照れくさくて、会話に困った私たちは、二人でその美しい景色を見上げる。
禄の瞳の中にも、儚げな桜が舞っている。
「綺麗だね」
禄がそうつぶやくたびに、心が、震える。
……ねぇ、禄。
もし君が大人になっても、桜を見て綺麗だと思うこの気持ちを、どうか忘れないでいてほしい。
たとえこの先、どんなに悲しいことやつらいことがあっても。
世界を敵だと思わないで。ひとりで考え込まないで。必要とされていないなんて、悲しんだりしないで。
もし生きてる意味がないと感じることがあったら、ゆっくり目を閉じてから空を見上げて、視界いっぱいにこの世界の広さを感じてみてほしい。
そして、思い出して。
何度でも季節は巡るということを。
どんな人にも、等しく……優しく。
「禄と一緒に見る桜が、世界で一番綺麗!」
一週間ごとに季節が巡っていく美しい世界を、私は君と生きた。
end
それから、名前を優しく呼ばれ、ふいにキスをされた。
それは本当に一瞬の出来事で、ぽかんと口を丸く開けて驚いている私を見て、禄も少しだけ顔を赤らめている。
「ごめん、いきなり」
「う、ううん……! 全然、いいよ」
どうしよう、心臓を労わらなきゃいけないのに、初めて禄からキスをされて、激しくドキドキしている。私はぶんぶんと手を横に振って取り繕い、なんとか動揺していることを悟られないようにした。
甘酸っぱい空気が充満している部屋の中に、窓の隙間から、桜の花びらが入り込んできた。
「あ、禄、また桜が!」
照れくさくて、会話に困った私たちは、二人でその美しい景色を見上げる。
禄の瞳の中にも、儚げな桜が舞っている。
「綺麗だね」
禄がそうつぶやくたびに、心が、震える。
……ねぇ、禄。
もし君が大人になっても、桜を見て綺麗だと思うこの気持ちを、どうか忘れないでいてほしい。
たとえこの先、どんなに悲しいことやつらいことがあっても。
世界を敵だと思わないで。ひとりで考え込まないで。必要とされていないなんて、悲しんだりしないで。
もし生きてる意味がないと感じることがあったら、ゆっくり目を閉じてから空を見上げて、視界いっぱいにこの世界の広さを感じてみてほしい。
そして、思い出して。
何度でも季節は巡るということを。
どんな人にも、等しく……優しく。
「禄と一緒に見る桜が、世界で一番綺麗!」
一週間ごとに季節が巡っていく美しい世界を、私は君と生きた。
end