でも、五年もあったらきっと環境は大きく変わるし、禄に大切な人ができていたり、私の存在が薄れていたりしても仕方がない。大人になりすぎた頃に高校生の私と再会しても、きっと戸惑うだけだと思うし。
 だったら、そのときはもう別々の世界でお互い生きた方がいい。……なんていうのはただの綺麗ごとで、私の知らない世界を生きてきた禄を見ることが怖いから、本当は逃げたいだけかもしれない。
 でも、この決断に後悔や迷いはないよ。
 禄には、私に縛られすぎずに、新しい人生を歩んでいってほしいから。
「あ、青花見て。桜吹雪だ」
「えっ、ほんとだ! 雪みたい」
 禄の言う通り、カーテンを全開にしていた窓の外で、桜の花びらが風に乱れ散っている。
 眩い夕日に透かされながら、雪のように儚い花びらが四方に舞う。
 立ち上がった禄が、窓を少し開けて手を出して、手のひらで桜の花びらを受け止めた。
「見て、五枚も取れた」
「わー、春だー」
「はは、シンプルな感想だ」
 禄は笑うとき、目がふにゃっと細くなる。それがとても愛おしい。
 私は花びらを全て両手で受け取ると、それを禄の頭の上に降らせた。
「えいっ」
「わっ、びっくりした。何するの」
 禄の頭上から、桜の花びらがひらひらと舞う。
 彼は驚いたように花びらを受け止めている。
「私が寝てる間も、禄に神のご加護がありますように、祈っといた!」
 自信満々にそう伝えると、禄は「雑な祈りだなー」と苦笑する。
 私も笑いながら、禄の髪の毛に載った桜の花びらを取ろうと手を伸ばす。
 しかし、そのまま腕を引っ張られ、禄にぎゅっと抱き締められた。
「……青花にこそ、神のご加護が、ありますように」
 私よりもずっと真剣に、そうつぶやく禄。
 あまりに優しく、祈るみたいに抱き締められたので、私は不覚にも一瞬涙腺が緩んでしまった。
 でもそれを、ぐっと堪える。最後の一週間くらいは、笑顔の私でいたいと思っているから。
「夢の中に、禄がたくさん出てきたらいいな」
「……出られるように、頑張って念じておく」
「ふふ、いいねそれ」
 抱き合いながらそんなバカげた話をしていると、開いた窓から風が入り込んできて、机に裏返しで置いていたメモの切れ端を攫ってしまった。
 私は床に落ちたそれにすぐに気づくと、禄に見られないように、無理やり彼の顔の角度を変えてから、紙を素早く拾い上げる。