「もう動画配信はとっくに止めたけどね」
「また再開してくれるの待ってるのになー」
 口を尖らせて拗ねたようにそう言ってくれる中川は、素直にいいやつだと思う。
 なんて昔話をしていると、部長がひとりの女性を連れてこっちにやってきた。
 ふと視線を向けると、俺は驚きその場に固まる。
「話には聞いていたと思うが、今日からインターン生としてやってきた板野結衣さんだ。OJT担当は中川だったな。よろしく」
「皆さんはじめまして、K大情報学科三年の板野結衣です。プログラミングの知識を存分に学んで、いつか新卒で入社できたらと思っています。よろしくお願いいたします」
 深々と頭を下げるその女性は、どこかで見たことのあるような顔をしていた。
けれど、なかなか思い出せない……。ゼミの後輩に似たような感じの人がいただけだろうか……。
 なんて考え込んでいると、茶髪を肩の高さで切ったボブスタイルの彼女は、俺とバチッと目が合うと、目を丸くし口をあんぐりと開けた。
「あれっ、しわ……じゃなくて禄さん!」
 俺のハンドルネームを言いかけた彼女だったけど、慌てて口を両手で塞いでいる。
 師走さん、と呼ばれかけた瞬間、頭の中に青花と同じ病室にいるみつあみの少女が浮かんできた。
「あ……」
 社員の視線を浴びる中、俺は思わず声を出す。
 世間は広いようで狭いとは、こういうことなんだろう。

「いや、ほんっとびっくりしました! まさか師走さんがここで働いてるなんて……」
 終業後、社内にあるオープンな打ち合わせスペースで、俺たちは久しぶりに顔を合わせた。
 スーツ姿で見た目は大人っぽくなったものの、話すとあんまり変わっていなくて少し安心する。
「最後に会ったのって、師走さんが高校生のときですよね? 師走さん、動画配信も急にやめちゃうんですもん、心配してました」
「受験でバタバタしてたのもあって……、俺もちゃんと視聴者さんに説明すべきだったよね」
「いやいや、いいんですよ! 師走さんが元気ならそれで!」
 板野さんは焦ったような反応を見せて、アイスコーヒーを一口飲んだ。
 幸治さん伝いで、板野さんは治療を受けられることになったと聞いていた。
 とても難しい手術で体力が持つか心配されていたけれど、彼女は見事にそれを乗りきったと。