すべての季節に君だけがいた

『こんな世界になるんなら、生きてたって意味がない!』
 でも、どうしても生きていてほしかった。君に、未来を見てほしいと思ってしまった。
『ゲーム作ったら一番に私にやらせてよ』
 あのときの約束も、
『本当に、世界が変わる前に、起こしてくれる……?』
 あのときの約束も、
『目覚めたら、またそばにいてくれる……?』
 あのときの約束も。
 俺は本当にひとつも、守れやしなかったんだな。
 できない約束なんて、最初からするもんじゃない。
「青花、ごめっ……うぅ」
 この涙の止め方を、俺は知らない。
 スマホでは、天使がまだ呑気に手を振っている。
 俺は、もうこのまま溶けてなくなってもいいと思いながら、号泣した。
 忘れる訳がない。忘れられるはずがない。
 何度季節が巡っても、君と過ごした季節だけが、永遠のように光り輝く。
 この先、何があっても。誰と過ごしても。
 季節の変化を感じるたびに、君のことをきっと思い出す。
「青花、大好きだよ……っ」
 顔をぐちゃぐちゃにしながら、もう本人には届かない告白をした。
 好きだよ。大好きだよ。青花。
 君がいたから、この世界を愛おしいと思えたんだ。
 君がいたから、弱さと向き合って変わりたいと思えたんだ。
 君がいたから……。
「一生……忘れない……」
 でも、俺は、いつまでも心を枯らして時間を止めている訳にはいかない。
 だってこの時間は、青花が欲しくても手に入れられなかった、〝今〟なのだから。
 そっと置きっぱなしにしていたスマホを手に取り、腕の中で抱き留める。
 すると、青花の泣きそうな笑顔と一緒に、俺たちが交わした最も尊い約束が、頭の中に降ってきた。
『禄、未来で会おうね』
 それは、叶わなかったけれど。この先何があっても叶うことはないのだけれど。
「くっ……う……」
 涙を拭って、俺は歯を食いしばる。
 そして、天使になった青花が画面上で伝えてきた言葉を、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「新しい……人生を……」
 生きなくてはならない。
 季節は、悲しみになんか関係なく、等しく訪れてしまうのだから。
 こんなところで立ち止まって、置き去りにされている訳にはいかないんだ。
 止まっていた時間を動かさなければならない。
「俺は生きるよ……青花」
 涙と鼻水を乱暴に拭って、俺は埃をかぶっていたパソコンを立ち上げる。