何が正解か分からないまま、今度は最後の選択肢である【起こさない】を押してみる。
すると再び、不快な音がしてこっちを煽ってくる。

【あなたの弱腰な判断で世界平和は守られず、未来は滅びました。ゲームオーバーです。仕切り直して、新しい人生を歩みましょう】

「はは、何このクソゲー……」
思わず呆れ返るが、自分の目からは涙がこぼれ落ちていた。
画面では、クリオネのような笑顔の天使が、浮きながらこっちに向かってひらひらと手を振っている。
本当はもう、うすうす気づいていた。青花がこのゲームに託した思いに。

【新しい人生を歩みましょう】

 それが、青花がずっと言いたかったこと。
 これは、青花が〝自分のことは忘れて、俺の人生をしっかり歩んでほしい〟と願って作ったゲーム。
「うっ……うぅ……」
 青花の思いが切なすぎて、俺はその場で泣き崩れる。
 いったい、いつから?
 いつから、生きてるうちに会えないかもしれない覚悟をしていた?
 青花と過ごした日々が、激しく打ち寄せる波のように、頭の中に流れ込んでくる。

『趣味は〝師走〟のゲーム実況を観ることです』
 ――春。君は突然何もない俺の目の前に現れた。まるで急に水面に落ちてきた桜の花びらのようだった。
『次起きるときに、新作見せてよ』
 でも、君は一年間にたった四週間しか目を覚ませない処置を受けていた。
『誰かの人生を否定しないと、自分の人生に満足感を得られないんだ?』
 夏。可憐な見た目とは反対に、理不尽なことを許せない君の強さに触れた。
『私、ダメなの、自分の大切な人バカにされんの、絶対我慢できない……っ』
 でも、君は決して強いだけじゃなかった。同じくらい、弱さもあった。
『どうしてだろう。禄といると、平気だったことが、平気じゃなくなる……』
 秋。少しずつ距離が近づいたように思えて嬉しかった。君のことを好きだと自覚した。
『本当は私、大切な人がいる今の世界を生きたい。大切な人が誰もいない未来の世界に残されたって、意味ないなって思うんだよ……っ』
 でも、この気持ちは伝えちゃいけないと思った。俺たちは何ひとつたしかな約束を結べないことを知っていた。
『禄にはもう、私を忘れて生きていってほしい』
 冬。自分の無力さに打ちのめされて、泣いてばかりだった。俺は君に何もしてあげられなかった。