君と始める一週間


 どうしてこんなことになっているのか、全く分からない。
 人生で初めて女子と校門で待ち合わせるというイベントが発生しているけれど、さっきから変な汗が止まらない。
 俺のことを神だと言って目を輝かせる彼女の表情が頭から離れず、ずっと心臓がドキドキしている。
 あんな風にまっすぐに女子に見つめられたことなんて初めてだった。
 しかも、俺のゲームしている手元を見せてほしいだなんて、そんなもの見てどうするというのか……。
「よ! お待たせ!」
「うわっ、びっくりした……」
 ひとりで悶々と考えていると、いきなりバンッと背中を叩かれた。
 慌ててうしろを振り返ると、そこには笑顔の鶴咲がいた。
 相変わらず、新人女優のような透明感があって、正直どの生徒よりも目立っている。
 校内では『眠れる美少女』がやってきたとすでに話題で、そんな彼女が俺なんかと待ち合わせていることに周囲は興味津々のようだった。
「は、早く駅に移動しよう」
 居たたまれなくなって早口でボソッとそう言うと、彼女は「そうだね」と明るく言って、駅まで歩きだす。
 今さら思ったけど、これ、普通に駅で待ち合わせすればよかったのでは……。
「で、どこに行くんだっけ」
 歩きながら鶴咲に問いかけると、彼女は目をパチパチとさせながら当然のように答えた。
「え、そりゃあ私の家でしょ」
「えっ」
「ここから二十分くらいのところだからさ」
 女子の家に行くって、俺にはいきなりハードルが高すぎる……。
 そもそも友達の家に遊びに行ったのだって、小学校低学年以来の記憶だ。
 何もかも勝手に決めてしまう彼女に、さすがについていけないと言いそうになったけれど、彼女が言っていた言葉が頭に浮かんで、口をつぐむ。
『一週間って、とっても短いんだもん!』
 鶴咲にとってこの七日間は、俺がぼうっと過ごしている七日間よりもずっと大切で、濃いものなんだろう。
 それを思うと、断れなかった。

「鶴咲、日暮里が最寄りなの?」
「うん、そうだよ」
 鶴咲が降りた駅は、何と俺の家の最寄り駅だった。大きな商店街があるので、下町っぽさもありながら、ちょっと奥に入ると高層マンションが建ち並んでいる住みやすい街。
 まさかこんなに近くに住んでいたなんて、思いもしなかった。
 驚いている俺を不審に思ったのか、鶴咲が「どうかした?」と聞いてくる。