俺は彼の目をしっかり見つめて、ひとつも言葉を聞き逃さないように黙って聞き入る。
「子育てに時間をあまり割けないから、その分厳しく躾けてきたけれど、こんなことになるのなら、コールドスリーブなんてさせずに、もっと好きなことだけやらせてあげれば……」
「青花は、きっと感謝してますよ……」
「どうかな。妻も若くして亡くしたからね。ただ、生きてさえいてくれればって、その思いだけで……押しつけてしまったのかなと……」
 そこまで話して、言葉に詰まる幸治さん。
 目にうっすらと涙がたまっていることに気づき、俺は何となく気を遣って目を逸らす。
 俺までつられて、目頭が熱くなってきた。
 もう、涙なんかとっくに枯れ果てたと思っていたのに。
「大切な人には、生きていてほしいに決まってます。幸治さんの思いは、決して間違ってないです……」
 まっすぐ伝えると、幸治さんははなを啜ってから、「ありがとう」と小さく返す。
 生きてさえいれば。
 本当に、そうだ。俺もそう願っていた。生きてさえいてくれればって。
 それは、こっち側のエゴなのかもしれないけれど、そう願ってしまったんだ。
「神代君と出会ってから、青花は一週間ずっと楽しそうだったよ」
「え……」
「それまでずっとひとりでゲームを眺めてるだけだったからね。自分の世界に突然現れてくれた神代君の存在は、とても大きかったはずだ」
 優しい笑顔でそう言われ、俺はぶんぶんと首を横に振る。
「そんなこと……。俺は、何も青花の約束を守ってあげられなかったですから……」
「コールドスリープをするようになってから、約束なんてしなくなったんだ。あの子は」
「え……」
「未来のことなんて、考えたくもなかったんだろう……怖くて。だから、神代君がいてくれてよかったんだ。青花のあんな笑顔をつくれるのは、君だけだ。……ありがとう」
 その言葉に、ぐっと涙腺が緩む。
 想像することしかできないけれど、本当にそうだったのなら嬉しい。
 俺というちっぽけな存在でも、少しでも青花のためになれたなら……。
「だから神代君ももう、未来のことを考えていいんだよ」
 続けて語られた言葉に、今度は胸のどこかがチクッと切なくなる。
 俺を思って言ってくれた言葉だと分かっているけれど、もう前に進むべきだと言われている気がして。