今日も墓前に青い花を飾り、手を合わせたまま沈黙する。
「青花、来たよ……」
 夕日に照らされながら、胸の中で青花に何度も何度も問いかける。
 そっちの世界はどう? 楽しくやれてる?と……。
 もちろん、答えなど返ってくる訳はないけれど。
「神代君?」
 ふと、突然名前を呼ばれて俺は顔を上げる。
 夕日による逆光で顔がよく見えなかったが、声とシルエットで幸治さんだとすぐに分かった。
「あ……どうも」
 久々に会ったというのに、俺は素っ気ない挨拶しかできない。
 約一年ぶりに会った彼は、前より少し痩せて、白髪も増えていたので、一瞬戸惑った。
「ありがとう。いつも花を供えてくれているのは、神代君だったんだね」
「あ、いえ……」
「今日は午後の診察がお休みでね。掃除をしようと思って来たんだ」
 手桶と柄杓を持った幸治さんは、お墓のてっぺんからゆっくり水をかける。
 水のカーテンが広がり、眩い夕日が反射した。
 幸治さんは、線香の細い煙の前で合掌し、静かに目を閉じる。
 ひとりにしてあげるべきだったと気づいたのは、彼が目を開けて俺を見上げたときだった。
「今は大学生かな?」
 突然の質問に、俺は首を縦に振る。
 大柄な幸治さんが立ち上がると、見下ろされる形になった。
「はい……。R大に通ってます」
「そうだったのか、さすがだな」
 幸治さんは、少し驚いたように目を見開く。
 何も近況報告をしないまま音沙汰なしになってしまったので、俺たちは互いに最近のことを淡々と報告し合った。
 といっても俺は、何も変わり映えしない日々を過ごしているけれど。
「もうそろそろ、青花の一周忌でね」
「そうですね……」
 いつか幸治さんと遭遇するかもと思っていたけれど、結局入れ違いのまま一年が過ぎていた。
 避けては通れない青花の話題に、胸がズクンと痛む。家族を失いひとりになってしまった幸治さんの方が、ずっとずっとつらいだろうに。
「コールドスリープの処置が、青花にとって本当に幸せだったのか、今でも考えてしまうよ」
「幸治さん……」
「俺も提案するまで迷った。妻の玲子が生きていたらどうしただろうと、何度もお墓まで来て、胸中で問いかけたりしてな。それで、ここに何度も来るうちに、きっと玲子なら未来を生きる青花を見たいだろうと思ったんだ。……まあ結局、親のエゴだな」