それでも季節は巡る


 もう二度と会えない。もう青花は、世界のどこにもいない。
 絶望したまま、秋が来て、冬が来て、春が来て、夏が来た。
 青花のいない季節が、ただただ通り過ぎていく。
 記憶がほとんどないまま、俺は希望通りの大学へと進学した。
 現実から逃げるために何もかもを勉強の時間に注いだ結果、大学生になることはできたけれど、俺は全部の感情を失って生きていた。
 師走としての活動も休止したまま、ひとりも友達をつくらず、何も感じることもできず、ゲームをやることも作ることもやめて。
 ただただ時間だけが過ぎていく。
 家族は俺のことを心配した様子だったけれど、『大学に入ったらひとり暮らしするつもりだったから』と告げて強引に家を出た。
 そして今俺は、昼まで寝て過ごし、午後の講義だけ受けに大学に来ている。
 講義内容は、全く頭の中に入ってこない。
「では、次回はグループワークになりますので、各自準備しておくように」
 白髪頭の気難しそうな教授がそう言い残して、講義室を出ていった。
 日当たりが強すぎて誰も座らない席にいた俺も、ゆっくりと席を立ち、講義室を出る。
「ねぇ今日どうする? どっか遊びいく?」
「私もうひとつサークル入りたくてさー、K大のインカレのサークル新勧誘われてるんだけど一緒に行かない?」
「えー、行く行く」
 同じ空間にいるのに、自分とは全く違う次元の会話をしている女子数人が横を通り過ぎた。
 生活リズムを狂わさないためだけにただ大学に来て、バイトがなければ自宅へと直帰し、夜になったら眠る。機械的に動くだけの日々。
 何も考えないように……。思い出さないように。
 極力、自分の心をどこか遠くに飛ばして、生きている。
 コールドスリープの反対運動は、あの事件以来鎮静化した。
 主犯の二人は逮捕され、今裁判の最中だ。結果として、あの事件で亡くなったのは青花だけで、ほかの患者は一命を取り留めた。
 裁判の記録の記事を読んだけれど、犯人二人は全く悪気がなく、『彼らのためにやったことだ』と繰り返している。
 けれどもう、そんなことはどうでもいい。
 何かに心を動かすことがつらくて、しんどくて、自分の体の重さが鬱陶しいと感じるくらい。

 そんな日々の中で、俺が唯一ほぼ毎日通っている場所がある。
 それは、青花が眠っている谷中霊園だ。