いつか会えることを信じていたのに。
それだけが、自分の生きる意味で、希望そのものだったのに。
 わずかな光さえも、可能性ごと、今、全部消えた。
「うあああっ……あああああっ」
 外からは、微かに反対運動をしている集団の声が聞こえる。
「命は自然であるべきだ」「未来ではなく今をどう過ごすかに意味がある」と熱心に訴えている。
「うっせえよ……。黙れよ……」
 外で騒いでいる人たちに向けて、腹の底から低い声が出た。
 俺はその場に崩れ落ちて、青花が眠る前に言った言葉を思い出す。
『禄、未来で会おうね』
 もう、無理だ。心臓が粉々に千切れそうなほど、悲しい。
「俺、何ひとつ、約束守れてない……っ」
 ぼたぼたと、止まることを知らない涙があふれてくる。
 生きてもう一度会おう。それだけが、俺たちの約束だった。
たったそれだけだった。
 青花は、いろんな不安も恐怖も全部のみ込んで、コールドスリープの機械の中に入ったんだ。
 そんなこと、外で騒いでるやつらは誰も知らない。
「……何も、知らない癖に……っ」
 青花が、本当は〝今〟を生きることを優先したいと思っていたことを、誰も知らない。
 それでもおばあさんとお父さんのために生きようとしていたことも、誰も知らない。
 時差に悩んで人間関係を諦めても平気なふりをしていたことを、誰も知らない。
 孤独で壊れそうになった夜が何度も何度もあったことを、誰も知らない。
 生きる選択をこんな若さで迫られても、答えをちゃんと出した強さを誰も知らない。
 ――鶴咲青花のことを、今外で騒いでいるやつらは、誰も何も知らない癖に。
「なんでだよっ、どうしてっ……!」
 この悲しみが死ぬまで消えないことだけが、今、はっきりと分かっている。
 誰かの人生を否定することなんて、誰にもできないはずなのに、そんなの絶対許されないことのはずなのに、善意だと思い込んだ人間たちに、青花の人生は勝手に想像されて、勝手な理由で殺された。
 青花と過ごした日々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
 彼女は、どんな日も、自分らしく必死に生きていた。
 三百六十五日の、たった四週間しか、目を覚ませなかったけど。
「青花、目を覚ましてくれよっ……」
 絶望した俺は、その日の記憶がなくなるまで泣いた。
 いくら涙を流しても、青花は目を開けない。もう二度と会えない。