受け止めたくなかった現実が、今目の前に迫っている。
 先生がいる治療台に近づきながら、俺は自分の心臓を手で押さえた。
 でも、次の瞬間、押さえていた心臓が、自分の体の中でガラスのように砕けるのを感じた。
「青、花……?」
 がくっと、その場に膝から崩れ落ちる。嫌な予感は、悲しいくらいに的中していた。
 現実が怖くて一歩も近づけない。何も受け止めたくない。嘘だと言ってほしい。
 けれど、薄暗い部屋の中には、酸素マスクも何もつけずに、人形のように眠っている青花の姿があり、彼女のそばにあるモニターの心電図は平行な直線を描いていた。
「嘘……、嘘だ……、嘘だ……」
「最善を尽くしたけれど、最初からかなり重篤な状態だったんだ……」
「嘘だ‼」
 守倉先生の声を遮って、思い切り叫ぶ。
「僕は……本当に何もできなかった……、すまない……」
 何が、起こっているんだろう。
 俺は、夢の中を歩くみたいに、一歩一歩青花に近づく。
 現実味がなさすぎて、涙も出てこない。
「青花……?」
 俺は、彼女の名前を呼びながらゆっくりと顔を覗き込む。
 そこには、コールドスリープ中のときと同じ、美しい寝顔の青花がいた。
 目の前にある残酷すぎる現実に、心が壊れそうになっている。
「なんでっ……? ねぇ、なんで……」
 ぼたぼたと、涙が流れ落ちる。
 鼻につんとした痛みが走って、目が熱くなって充血していく。唇がわなわなと震えて、脳は思考停止状態になった。
 話しかけたら目覚める気がして、俺はひとり問いかける。
「起きてよ……。なんで寝てるの? 約束したじゃん、一緒に未来を生きるんだろ。俺、たくさんゲーム作るために受験勉強してんだぞ。青花がいなきゃ、作る意味ひとつもないじゃん……。ねぇ、頼むから……。もう、このまま永遠に起きないなんて、そんなんないだろ……っ」
 何度問いかけても、青花の瞼はピクリとも動かない。
 変わらない様子を見て、何かがプツリと切れてしまった。
「青花! 寝てないで目覚ましてよ、青花……! ううう、ああぁっ……!」
 このまま、体が溶けてなくなりそうなほど、涙があふれて止まらない。
 視界がぐにゃぐにゃに歪んで、まともに青花の顔も見られない。
 息継ぎもできないうちに、嗚咽で酸素がどんどん漏れていく。
 青花の頬に自分の涙が落ちて、まるで青花が泣いているようにも見えた。