「で、俺、デリカシーないの承知で、一回聞いたことあんだよね。〝人生早送りされてる感じなの?〟って。そしたらさ、そいつ……」
 言葉に詰まった俊也は、ぐっとお茶を飲み干して、気持を落ち着ける。
「〝人生が凝縮されてる感じだよ〟って、笑って答えたんだ」
「え……」
「皆にとっての一日が、一年分みたいに濃く感じるって」
 その言葉に、俺はものすごい衝撃を受けた。
 そして、青花のことをすぐに思い浮かべた。
 青花と過ごした日々は、たったの五週間だった。
 一ヶ月と少しの時間で、青花は何があっても忘れられない人になった。
「だから……、その、兄貴にとっての大事な人も、そうなんじゃない」
「そうかな、サンキュ」
 ぶっきらぼうな俊也の言い方に、思わず小さな笑みがこぼれる。
 彼なりに元気づけようとしてくれたのだろうか。
 恥ずかしくなったのか、俊也はグラスを水切りかごに置くと、「じゃ、先に寝るわ」と言って二階に上がってしまった。
 人生が凝縮されているのなら、俺との一日が、青花にとっても濃いものだったら嬉しい。
 俺にとっても間違いなく、青花と過ごす一日は、自分の一年の時間よりも価値のあるものだったから。
『禄、未来で会おうね』
 頭の中で、青花との約束がリフレインする。
 まるで夢の中で交わしたように、儚くて、尊い約束。
 でも、数十年後には叶う。その日を待って、今は自分の人生を歩んでいくしかない。
「……少し休憩するか」
 青花のことばかり考えてしまいそうになったので、俺は気持ちを切り替えるためにスマホのロックを解除する。
 ガンクロさんの最新動画を観にいこうとすると、何やらトップページでひとつの動画が炎上中のようだった。
【病気ではないが未来に行きたいのでコールドスリープを利用してタイムリープしたい!】
 その動画のタイトルを見て、一瞬で怒りが頂点に達した。
「は……?」
 それは、世間では人気の若手動画配信者で、動画上で身振り手振りを大げさにしながら説明をしている。
「何言ってんだ、こいつ……」
 内容は、実際に病院でタイムリープが可能なのかを聞きに突撃したという動画で、コメント欄は荒れに荒れていた。
【私も今いじめられていてつらいからタイムリープしたい】
 コールドスリープは、タイムリープの道具じゃない。
【コールドスリープは命の自然な流れを侮辱する、悪の処置】