「兄貴、たまに守倉病院寄ってる?」
「え」
「この前何回か見た。M学園の通り道だから」
リビングで勉強をしていると、お風呂から出てきた俊也がそう問いかけてきた。
 俊也は今年の春見事にM学園に受かって、充実した高校生活を過ごしている様子。
 たまに調子に乗りすぎて人を見下すところがあるので、兄としてはそこだけが不安だけど、俊也も俊也なりに変わっていきたいと思っているみたいだ。
 母親の長い世間話をちゃんと聞いてあげたり、俺にもたまに話しかけてきたり。
 受験期のような尖った俊也ではなくなったので、そこは本当によかったと思う。
「うん。知り合いが入院してて、そのお見舞い」
 俊也の質問に、俺は少し遅れて答える。
 守倉病院とM学園は近い場所にある。たしかに、見られていてもおかしくはない。
 俺は何て答えようか迷ったけれど、そのまま素直に説明することにした。
「そうなんだ。四季コールドスリープ?」
「え、なんで知ってんの?」
「いや、だってあそこ、その処置で有名じゃん。コールドスリープに反対してる人は、毎朝看板持って訴えてるし、登校の邪魔なんだよね」
 冷蔵庫から冷たいお茶を取り出しながら、俊也は淡々と答える。
 俊也の口からコールドスリープの話が出るとは思わなかったので、俺は少し動揺していた。
「俺の中学にもいたんだよね。四季コールドスリープしてる男子生徒」
 俊也のクラスにも……?
 まだこの処置は浸透していないと思っていたけれど、意外と近くにいるもんなんだ。
「そいつとは一回しか話したことないけど、一年がたったの四週間しかないって、どんな感じなのかなって、想像したことはある。クラスのやつらは、その男子生徒が紹介されたとき、コールドスリープっていう単語にSFみ感じてざわついてたけど、俺はずっとひとりで想像してた」
 俊也はお茶を飲んで、目を伏せグラスを見つめながらしんみりと話す。
「寝て起きたら、あっという間に季節が巡ってるんだろ。それってなんか、タイムリープしてる感覚なんだろうなって……。置き去りにされてる孤独感とか、すごそうだなって思った」
 世界に置き去りにされる……その恐怖に、青花自身もたしかに怯えていた。
 彼女の泣き顔を思い出して、胸がぎゅっと苦しくなる。