俺は不自然に甘い卵焼きを頬張りながら、どうにか淡々と話すことに努めた。
「え、それって何年後まで?」
「最長二十年らしい……」
「え、もう俺らそのときアラフォーじゃん」
「いやでも、最長だから……」
 改めて人から言い聞かされるとずしっとくるものがある。
 まだ俺はどこかで、明日には青花が目を覚ますとか、思ってるのかもしれないな。
 桐生は「そっか」と信じられないような表情でつぶやいてから、俺の前になぜか個包装のチョコのお菓子をザーッと広げる。
「チョコやるから、元気出せよ。彼女がコールドスリープ中のやつなんて出会ったことないから、何て言葉かけたらいいのか分かんねぇけど」
「俺、甘いものそんな好きじゃないんだけど……」
「あ、彼女ってこと、やっぱり否定しないんだ? くそーっ、鶴咲さん狙ってたのになー」
 桐生は、今度は顔を両手で覆って大げさに嘆いた。
 彼が青花に好意を抱いているのは何となく分かっていたけれど、こうも露骨に言われると反応に困る。
 まあ、半分冗談で言ってるんだろうけど。
「桐生はモテるから、落ち込む必要ないでしょ」
 ぼそっと言葉を返すと、桐生は「まあそうだけどさー」と全く否定せずに受け入れる。本物の陽キャってすごいな。
 大学生になっても無双しまくる彼の姿がありありと浮かんでくる。
「でもさ、鶴咲さんが俺みたいなのより神代を選ぶ理由、分かるよ」
「え?」
「神代は、不器用だけどいいやつだからな」
 唐突に褒められて固まる。
 俺はちっともいいやつなんかじゃない。正直桐生のことをウザいと思っていたくらいだし。
 今でこそ少し話す仲になったけれど、俺は別に桐生に親切なことはしていない。
「全然、いいやつなんかじゃないよ。俺は」
「そうか? 俺結構、人見抜く力には自信あるけどな」
 俺、揉めたときに結構、桐生にひどいことを言った気がするけど。
 でももうそんなことは、彼にとって過去のことなんだろう。
 自分にはないものを持っている桐生が、少し羨ましくも感じた。
「やべ、もうこんな時間か。早く食べないと」
 桐生の言葉に、俺もすぐに時間を確認して驚く。
 いつの間にか昼休みの時間は残り五分となっていて、俺たちはばくばくと昼飯をたいらげ、午後の講義に向かった。
 そういえば、青花とのことを誰かに話したのは、初めてだった。