バカだ。こんなこと言ったって、何の希望にもなりはしない。
でも俺は、本気だった。
決めたんだ。青花が目を覚ましたときの世界を、少しでも楽しく、美しくしようって。
「目覚めた世界で大切な人がいなくなってても、とりあえずはこのゲーム終わるまでは生きていようって……、そう思えるようなゲームを作るよ」
「ふ、何それ……」
「本気だよ。青花が生きる小さな理由、俺が未来に残しておくから……。だから、安心して目を覚まして」
そう伝えると、青花はぎゅーっと子供みたいに抱き着く力を強めた。
それから、俺の顔を見上げて、目尻に涙を光らせたまま呆れたように笑う。
「バカだな、禄は……」
吐息交じりのその言葉。
写真に残しておきたいほど、儚い笑顔。
大切な人と過ごす何もかもが一瞬で、永遠なんてどこにもない。
「禄っ……、好き、大好き……」
「え……」
「言っちゃダメだって、思ってたんだけど……」
突然返された言葉に、俺は頭の中が一瞬真っ白になる。
とっくに自分が告白したことなんか頭から抜けていた……というよりも、返事が欲しくて想いを伝えた訳ではなかったから、動揺した。
嘘だ、まさか……。
青花も自分と同じ気持ちで、いてくれている?
そんなの……、ただの奇跡だ。
「ほ、本当に……?」
動揺したまま聞き返すと、青花はまた呆れたような声で「本気で気づいてなかったの?」と笑った。
「あーあ、あと一週間しかないのに、言っちゃった」
「ごめん、全然頭が追いついてない……」
「いやこっちからすると、そんなに予想外な理由が逆に分からないんだけど」
青花の突っ込みに、俺は徐々に冷静さを取り戻す。
勢いで抱き締め合っていた俺たちだけど、何だか急に気恥ずかしくなってきて、思わず同時にパッと離れた。
赤面しながら、青花は何かを話そうと口をもごもごさせている。
「あのね……、私、高一のときにこの病気のせいで親友失ったことがあるの」
「え」
突然の過去の話に、俺は小さく声を漏らす。
「すっごくつらかったけど、その時師走の言葉に救われたんだ。〝生きづらくても一緒に頑張ろう〟って、言ってたんだよ。覚えてないかもだけど」
「ご、ごめん、全然覚えてない……」
いったいいつのどんな動画だろう……。
絶対テキトーに言った言葉だろうに、そんな風に勇気づけられている人がいるなんて、想像もしなかった。
「あの日から、とにかく今を大事にして、辿り着いた未来をそのまま受け止めようって思ったの。絶対意地でも生きてやるって」
そこまで言うと、青花は一度俺の手を強く握る。
「あの日から、師走は……禄は私の神様だった」
「な、何言ってんの。大げさな……」
「大げさじゃないよ。出会ってくれてありがとう」
青花のまっすぐな言葉に、心臓がドクンと跳ねる。
そのとき、ふと夜風が吹いて、俺たちの間を光の玉のような何かが流れた。
「あ、桜……」
どこからか流れてきた桜の花びらが、ひらひらと舞い降りてくる。
まるで映画みたいに美しい映像が、目の前に広がっている。
……俺はこの景色を、一生、忘れない。
たった数秒の出来事だったけど、俺は瞬時に心の中でそう思った。
全てを目に焼きつけるように、青花だけを見つめる。
「ねぇ禄、私が頑張ってる姿、もう少しだけ見届けてくれる? まあ、どうせ寝てるだけなんだけどさ」
「うん、見守るよ」
俺が真剣な声で即答すると、青花は嬉しそうに目を細めた。
それから、「禄には敵わないな」と、どこか遠くを見ながらつぶやく。
「ひとつ、約束してもいい?」
「約束? どんな?」
「まあ、これは破ってもいいし、私の寝てる間のお守りみたいな、そんな約束なんだけど……」
「うん……?」
ごにょごにょと珍しく小声になっている青花に、俺は首を傾げる。
青花は俺と顔を向き合わせると、ひとつ緊張したように咳払いをしてから、小指を差し出した。
「禄、未来で会おうね」
「え……」
「約束だよ」
差し出された小さな小指に、俺は自分の指を絡める。
青花は自分のお守りのような約束だと言っていたけれど、違う。
未来で会おうと言われた瞬間、胸の中に降り積もった悲しみが、柔らかく溶けていくのを感じたんだ。
臆病な俺が口に出したくてもずっと言えなかった約束を、彼女はあっさり言ってのけた。
「うん、約束……」
「おじさんになっても、迎えに来てよね」
「うん、行くよ」
きっと、叶わないかもしれない約束なんて、この世界には山ほどある。
許せないことも、乗り越えられないことも、変えられないことも。
でも、それでも、それだから、君と一緒にいたい。
小指から伝わる幸せを噛み締めていると、ふと青花の顔が近づいてきた。
俺が「え」と声を出す前に、ちゅっと唇が唇に触れた。
「……だってあと一週間しか、ないから」
照れくさそうに言い訳をする青花。
俺は数秒本気で思考停止していたけれど、徐々に今起こった状況を理解する。
青花と一緒にいると、いつも予想もしていないことが起こるんだ。
俺は目を細めて笑顔を返し、青花を抱き締めた。
「未来で必ず会おう」
あと一週間後には長い眠りに入る青花に、そうはっきりと伝えた。
青花の体温を感じながら、彼女の未来のためにできることなら、何でもやろうと思った。
その日俺たちは、幸治さんに連絡を入れてから、朝日が昇るまで夕焼けだんだんで過ごした。青花はおばあちゃんとの思い出を、たくさん話してくれた。
翌日、青花は大人しく病院に戻り、一緒にお父さんに謝った。
俺は学校が終わるとお見舞いに行き、ずっと青花のそばにいた。
「あっ、禄、その技使うのずるい!」
「ずるいも何も、青花にも教えたのに……」
病室では、いつも遊んでいたみたいに、ゲームをした。
流行りの格闘ゲームを真剣にやる青花の表情は、ずっと眺めていたいほどくるくると変わる。
「禄、もう一回!」
勝ったら満面の笑顔になって、負けたら本気で悔しそうな顔になる。
このまま時間が止まればいいのにと、何度も思った。
ゲームをやるだけじゃなく、青花が作っていたゲームを完成させたいと言うので、躓いているところをアドバイスしたりもした。
「そのゲームやらせてよ」と言うと、彼女は「私が二十年後、目覚めたらね」といたずらっぽく答える。
今まで生きてきた人生よりも長く待たされるのか……と、一瞬途方に暮れたけれど、俺もその間にたくさんのゲームを作ろうと誓う。
そんな風に、いつも通りに過ごした約一週間後――。
青花は、永久コールドスリープに入った。
君のいない夏
青花のいない日々がやってきた。
桜の木は青々とした葉っぱを生い茂らせ、あっという間に夏が訪れる。
彼女と過ごした一週間は本当に一瞬で、一時間が一分のように感じられた。
夕焼けだんだんで思いを通わせたあの夜が、いまだに夢のように思える。
そして今俺は、あの日とはまるで真逆の、現実を生きている。
「共通テストの対策は、この夏休みで完璧にして終わらせましょう」
一クラス三十人ほどいる予備校の教室で、俺は真剣に紙の上に書かれた数式と睨み合う。
俺は情報系の学科に絞って受験対策を始め、とにかくプログラミングの知識を蓄えられることを最優先に大学を選んだ。
こんなことを言ったら受験生に恨まれるかもしれないけれど、俺はこの時期に受験があってよかったと心底思っている。
なぜなら、何もしていないと青花の顔が浮かんでしまうから。
会いたいという気持ちが、抑えられなくなるから。
ときどき、予備校の帰りに青花の病院に、寝顔を見にいっているけれど、やっぱりそれだけでは満たされない。
青花の明るい声や、太陽みたいな笑顔が、また見たい。
それがいったいいつになるかは、分からないけれど。
「よ、神代」
昼休み。塾内にあるイートインスペースにて、紙パックジュースを飲みながら話しかけてきたのは、桐生だった。
自分の高校でこの予備校に通っているのは俺と桐生しかいなかったため、たまに話すようになっていた。
桐生は向かい側の椅子に腰かけると、コンビニで買ってきた昼飯を机に並べる。
「神代ってR大志望なんだよな。今、情報系強いとこ人気だよなー」
「プログラマー志望、増えてるからね」
「俺も理数強かったらよかったな」
「桐生は英語の模試、すごいよかったじゃん」
予備校内でも女子にモテている桐生が、俺みたいな地味なやつと話してると周囲はやはり不思議なようで、今もチラチラと視線を感じている。
しかし彼は、そんなこと何とも思っていない。
「そういや鶴咲さん、もうそろそろ目覚ますの?」
ふいにそんな質問をされて、俺はコンビニ弁当を食べる手を止めた。
そうか、まだクラスメイトには何も知らされていないのか。
「鶴咲はもう、学校来ないよ」
「え? どゆこと?」
桐生は思いきり訝しげに眉を顰めて聞き返す。
「治療のめどが立ったから、それまで眠ることになったんだ」
俺は不自然に甘い卵焼きを頬張りながら、どうにか淡々と話すことに努めた。
「え、それって何年後まで?」
「最長二十年らしい……」
「え、もう俺らそのときアラフォーじゃん」
「いやでも、最長だから……」
改めて人から言い聞かされるとずしっとくるものがある。
まだ俺はどこかで、明日には青花が目を覚ますとか、思ってるのかもしれないな。
桐生は「そっか」と信じられないような表情でつぶやいてから、俺の前になぜか個包装のチョコのお菓子をザーッと広げる。
「チョコやるから、元気出せよ。彼女がコールドスリープ中のやつなんて出会ったことないから、何て言葉かけたらいいのか分かんねぇけど」
「俺、甘いものそんな好きじゃないんだけど……」
「あ、彼女ってこと、やっぱり否定しないんだ? くそーっ、鶴咲さん狙ってたのになー」
桐生は、今度は顔を両手で覆って大げさに嘆いた。
彼が青花に好意を抱いているのは何となく分かっていたけれど、こうも露骨に言われると反応に困る。
まあ、半分冗談で言ってるんだろうけど。
「桐生はモテるから、落ち込む必要ないでしょ」
ぼそっと言葉を返すと、桐生は「まあそうだけどさー」と全く否定せずに受け入れる。本物の陽キャってすごいな。
大学生になっても無双しまくる彼の姿がありありと浮かんでくる。
「でもさ、鶴咲さんが俺みたいなのより神代を選ぶ理由、分かるよ」
「え?」
「神代は、不器用だけどいいやつだからな」
唐突に褒められて固まる。
俺はちっともいいやつなんかじゃない。正直桐生のことをウザいと思っていたくらいだし。
今でこそ少し話す仲になったけれど、俺は別に桐生に親切なことはしていない。
「全然、いいやつなんかじゃないよ。俺は」
「そうか? 俺結構、人見抜く力には自信あるけどな」
俺、揉めたときに結構、桐生にひどいことを言った気がするけど。
でももうそんなことは、彼にとって過去のことなんだろう。
自分にはないものを持っている桐生が、少し羨ましくも感じた。
「やべ、もうこんな時間か。早く食べないと」
桐生の言葉に、俺もすぐに時間を確認して驚く。
いつの間にか昼休みの時間は残り五分となっていて、俺たちはばくばくと昼飯をたいらげ、午後の講義に向かった。
そういえば、青花とのことを誰かに話したのは、初めてだった。
〇
「兄貴、たまに守倉病院寄ってる?」
「え」
「この前何回か見た。M学園の通り道だから」
リビングで勉強をしていると、お風呂から出てきた俊也がそう問いかけてきた。
俊也は今年の春見事にM学園に受かって、充実した高校生活を過ごしている様子。
たまに調子に乗りすぎて人を見下すところがあるので、兄としてはそこだけが不安だけど、俊也も俊也なりに変わっていきたいと思っているみたいだ。
母親の長い世間話をちゃんと聞いてあげたり、俺にもたまに話しかけてきたり。
受験期のような尖った俊也ではなくなったので、そこは本当によかったと思う。
「うん。知り合いが入院してて、そのお見舞い」
俊也の質問に、俺は少し遅れて答える。
守倉病院とM学園は近い場所にある。たしかに、見られていてもおかしくはない。
俺は何て答えようか迷ったけれど、そのまま素直に説明することにした。
「そうなんだ。四季コールドスリープ?」
「え、なんで知ってんの?」
「いや、だってあそこ、その処置で有名じゃん。コールドスリープに反対してる人は、毎朝看板持って訴えてるし、登校の邪魔なんだよね」
冷蔵庫から冷たいお茶を取り出しながら、俊也は淡々と答える。
俊也の口からコールドスリープの話が出るとは思わなかったので、俺は少し動揺していた。
「俺の中学にもいたんだよね。四季コールドスリープしてる男子生徒」
俊也のクラスにも……?
まだこの処置は浸透していないと思っていたけれど、意外と近くにいるもんなんだ。
「そいつとは一回しか話したことないけど、一年がたったの四週間しかないって、どんな感じなのかなって、想像したことはある。クラスのやつらは、その男子生徒が紹介されたとき、コールドスリープっていう単語にSFみ感じてざわついてたけど、俺はずっとひとりで想像してた」
俊也はお茶を飲んで、目を伏せグラスを見つめながらしんみりと話す。
「寝て起きたら、あっという間に季節が巡ってるんだろ。それってなんか、タイムリープしてる感覚なんだろうなって……。置き去りにされてる孤独感とか、すごそうだなって思った」
世界に置き去りにされる……その恐怖に、青花自身もたしかに怯えていた。
彼女の泣き顔を思い出して、胸がぎゅっと苦しくなる。
「で、俺、デリカシーないの承知で、一回聞いたことあんだよね。〝人生早送りされてる感じなの?〟って。そしたらさ、そいつ……」
言葉に詰まった俊也は、ぐっとお茶を飲み干して、気持を落ち着ける。
「〝人生が凝縮されてる感じだよ〟って、笑って答えたんだ」
「え……」
「皆にとっての一日が、一年分みたいに濃く感じるって」
その言葉に、俺はものすごい衝撃を受けた。
そして、青花のことをすぐに思い浮かべた。
青花と過ごした日々は、たったの五週間だった。
一ヶ月と少しの時間で、青花は何があっても忘れられない人になった。
「だから……、その、兄貴にとっての大事な人も、そうなんじゃない」
「そうかな、サンキュ」
ぶっきらぼうな俊也の言い方に、思わず小さな笑みがこぼれる。
彼なりに元気づけようとしてくれたのだろうか。
恥ずかしくなったのか、俊也はグラスを水切りかごに置くと、「じゃ、先に寝るわ」と言って二階に上がってしまった。
人生が凝縮されているのなら、俺との一日が、青花にとっても濃いものだったら嬉しい。
俺にとっても間違いなく、青花と過ごす一日は、自分の一年の時間よりも価値のあるものだったから。
『禄、未来で会おうね』
頭の中で、青花との約束がリフレインする。
まるで夢の中で交わしたように、儚くて、尊い約束。
でも、数十年後には叶う。その日を待って、今は自分の人生を歩んでいくしかない。
「……少し休憩するか」
青花のことばかり考えてしまいそうになったので、俺は気持ちを切り替えるためにスマホのロックを解除する。
ガンクロさんの最新動画を観にいこうとすると、何やらトップページでひとつの動画が炎上中のようだった。
【病気ではないが未来に行きたいのでコールドスリープを利用してタイムリープしたい!】
その動画のタイトルを見て、一瞬で怒りが頂点に達した。
「は……?」
それは、世間では人気の若手動画配信者で、動画上で身振り手振りを大げさにしながら説明をしている。
「何言ってんだ、こいつ……」
内容は、実際に病院でタイムリープが可能なのかを聞きに突撃したという動画で、コメント欄は荒れに荒れていた。
【私も今いじめられていてつらいからタイムリープしたい】
コールドスリープは、タイムリープの道具じゃない。
【コールドスリープは命の自然な流れを侮辱する、悪の処置】
自然な流れってなんだよ。こいつは神様なのか?
【SFの世界じゃん笑笑】
笑ってんじゃねぇよ。現実で起きてることなんだよ。
【この現実から逃げられるならコールドスリープしたい。自殺する勇気はないし】
自殺の代わりにするなんて、お前は患者の目の前で本当に言えるのか?
「ふざんけんなよ……っ」
あらゆる角度から、皆、言いたい放題。
俺は画面を見ながら吐きけに襲われて、机に蹲る。
再生されたままの動画では、明るい声で【結果、やっぱりタイムリープ目的では不可能ということでしたー!】という結果発表がされている。
なんだ、これ。最悪だ。本当に最悪の動画だ。
思わずスマホを床に叩きつけそうになるけれど、怒りよりも先に、心の底から呆れる感情が湧いてきた。
「クソだな……」
それ以外に何も言葉が、出てこない。
夕焼けだんだんでひとり泣いていた青花を思い浮かべて、俺は心臓あたりを片手でぎゅっと鷲掴みにする。
苦しい。悲しい。今すぐ会いたいよ、青花。
世界はどうして
「おい兄貴! 兄貴……!」
俊也の焦ったような声で、俺は目を覚ました。
いつの間にかリビングで寝入ってしまったらしい俺は、ちっとも休まらなかった重い体を起こし、瞼をこする。
徐々にぼやけた視界がクリアになっていき、目の前に焦った様子で俺の肩を揺らしている俊也が現れた。
今日は休日だというのに、何をそんなに焦っているのか。
ふと壁にかかっている時計を見ると、時刻はまだ朝の八時だった。
「何だよ俊也、今日休みなのに……」
「ニュース! 今すぐ観ろよ!」
「え……?」
「朝練前にテキトーにテレビ流してたら今……」
ただならぬ様子の俊也に引っ張られ、俺はテレビが目の前にあるソファーへと移動した。
何やら病院の前で多くの人が騒然としている映像が流れている。
なんか、この病院、見覚えがある……。
ぼんやりそんなことを思っていると、『守倉病院』の看板が人の合間から見えて、ドクンと心臓が大きく跳ねた。
『コールドスリープ反対運動を行っていた数名の男女が深夜に院内に忍び込み、コールドスリープ中の患者の命綱ともいえる装置を勝手に外したとして、病院内は混乱を極めています。現場の情報によりますと、重篤な状態の患者が複数人いるようです』
「なん……だよこれ」
現場にいる男性アナウンサーが早口で伝えた事実を、俺は何ひとつ受け入れられなかった。
映像内で起こっていることは現実じゃないと、脳が心を守るために勝手に自分に言い聞かせている。
けれど、アナウンサーの言葉はどこまでも残酷だった。
『犯人は逃走中ですが、病院の周りには反対運動を行っている人であふれ返っています。反対運動参加者は、「コールドスリープは不自然な命の操作だ」「本当の眠りにつかせて解放してあげたのだ」としきりに訴えており――』
そこまで聞いて、俺は床に崩れ落ちる。
「嘘だろ……?」
「兄貴……」
何? 何が起こった?
どうしてそんなことができるんだ?
これは夢だと思いたくて、俺は何度も太ももを強く殴る。しかし、痛みを感じる。夢じゃない。これは、惨すぎる現実だ。
自然と涙があふれてきて、俺は全身を怒りで震わせる。
「嘘だ……、こんなの嘘に決まってる!」
俺の叫び声に、両親も二階から下りてきた。