小指から伝わる幸せを噛み締めていると、ふと青花の顔が近づいてきた。
 俺が「え」と声を出す前に、ちゅっと唇が唇に触れた。
「……だってあと一週間しか、ないから」
 照れくさそうに言い訳をする青花。
 俺は数秒本気で思考停止していたけれど、徐々に今起こった状況を理解する。
 青花と一緒にいると、いつも予想もしていないことが起こるんだ。
 俺は目を細めて笑顔を返し、青花を抱き締めた。
「未来で必ず会おう」
 あと一週間後には長い眠りに入る青花に、そうはっきりと伝えた。
 青花の体温を感じながら、彼女の未来のためにできることなら、何でもやろうと思った。

 その日俺たちは、幸治さんに連絡を入れてから、朝日が昇るまで夕焼けだんだんで過ごした。青花はおばあちゃんとの思い出を、たくさん話してくれた。
 翌日、青花は大人しく病院に戻り、一緒にお父さんに謝った。
 俺は学校が終わるとお見舞いに行き、ずっと青花のそばにいた。
「あっ、禄、その技使うのずるい!」
「ずるいも何も、青花にも教えたのに……」
 病室では、いつも遊んでいたみたいに、ゲームをした。
 流行りの格闘ゲームを真剣にやる青花の表情は、ずっと眺めていたいほどくるくると変わる。
「禄、もう一回!」
 勝ったら満面の笑顔になって、負けたら本気で悔しそうな顔になる。
 このまま時間が止まればいいのにと、何度も思った。
 ゲームをやるだけじゃなく、青花が作っていたゲームを完成させたいと言うので、躓いているところをアドバイスしたりもした。
「そのゲームやらせてよ」と言うと、彼女は「私が二十年後、目覚めたらね」といたずらっぽく答える。
 今まで生きてきた人生よりも長く待たされるのか……と、一瞬途方に暮れたけれど、俺もその間にたくさんのゲームを作ろうと誓う。
 そんな風に、いつも通りに過ごした約一週間後――。
青花は、永久コールドスリープに入った。