絶対テキトーに言った言葉だろうに、そんな風に勇気づけられている人がいるなんて、想像もしなかった。
「あの日から、とにかく今を大事にして、辿り着いた未来をそのまま受け止めようって思ったの。絶対意地でも生きてやるって」
 そこまで言うと、青花は一度俺の手を強く握る。
「あの日から、師走は……禄は私の神様だった」
「な、何言ってんの。大げさな……」
「大げさじゃないよ。出会ってくれてありがとう」
 青花のまっすぐな言葉に、心臓がドクンと跳ねる。
 そのとき、ふと夜風が吹いて、俺たちの間を光の玉のような何かが流れた。
「あ、桜……」
 どこからか流れてきた桜の花びらが、ひらひらと舞い降りてくる。
 まるで映画みたいに美しい映像が、目の前に広がっている。
 ……俺はこの景色を、一生、忘れない。
 たった数秒の出来事だったけど、俺は瞬時に心の中でそう思った。
 全てを目に焼きつけるように、青花だけを見つめる。
「ねぇ禄、私が頑張ってる姿、もう少しだけ見届けてくれる? まあ、どうせ寝てるだけなんだけどさ」
「うん、見守るよ」
 俺が真剣な声で即答すると、青花は嬉しそうに目を細めた。
 それから、「禄には敵わないな」と、どこか遠くを見ながらつぶやく。
「ひとつ、約束してもいい?」
「約束? どんな?」
「まあ、これは破ってもいいし、私の寝てる間のお守りみたいな、そんな約束なんだけど……」
「うん……?」
 ごにょごにょと珍しく小声になっている青花に、俺は首を傾げる。
 青花は俺と顔を向き合わせると、ひとつ緊張したように咳払いをしてから、小指を差し出した。
「禄、未来で会おうね」
「え……」
「約束だよ」
 差し出された小さな小指に、俺は自分の指を絡める。
 青花は自分のお守りのような約束だと言っていたけれど、違う。
 未来で会おうと言われた瞬間、胸の中に降り積もった悲しみが、柔らかく溶けていくのを感じたんだ。
 臆病な俺が口に出したくてもずっと言えなかった約束を、彼女はあっさり言ってのけた。
「うん、約束……」
「おじさんになっても、迎えに来てよね」
「うん、行くよ」
 きっと、叶わないかもしれない約束なんて、この世界には山ほどある。
 許せないことも、乗り越えられないことも、変えられないことも。
 でも、それでも、それだから、君と一緒にいたい。