「私は……、人より早く死んでもいいから、今を生きたかった。でもそんなこと口が裂けても言えなかった。おばあちゃんが、お父さんが、私に生きることを望むから。未来を生きることを望むからっ……」
 しばらく沈黙して、唇をぎゅっと噛み締めたあと、青花は心の底から叫ぶように、本音を絞り出す。
 多分これが、青花がずっと抱えていた本当の気持ち。
 眠りにつきながら、そんな葛藤とずっとひとりで戦ってきたんだろう。
 青花の苦しみを想像するだけで、涙腺が熱くなってくる。
「でも、大切な人がいなくなったら、私の生きてる意味はどこ……? 禄だって、私が寝てる間に私のことなんかいつか忘れる。私が寝てる間に恋人をつくったり、親友ができたり、仕事が成功したり家族ができたりして、大切なものがどんどん増えて……、私の知らない禄になっていくんだ。私が高校生のまま眠り続けてる間に」
 どんどん声が弱くなって、今にも壊れそうな表情になっていく青花の隣に、そっと座り直す。
横に並んで、青花の瞳から流れ落ちる涙を拭った瞬間、彼女の悲しみに、直接触れたような気がした。
「何か言ってよ、禄っ……」
 ぼすっと、俺の胸あたりを泣きながら軽く叩く青花。それでもまだ、何も言葉を返せない。見つからない。
 目の前で、大切な人がこんなにもボロボロになって涙を流している。
 自分に何ができる?
 青花が寝ている間、何度も何度も何度も問いかけてきた。でも、答えは出なかった。
 ずっと待ってるなんて、軽々しく言えない。
 だから、好きだなんて、もっと言えない。
 自分の気持ちを言ったらきっと青花を苦しめる。それなのに、今胸の中に浮かんでくるのは、できもしない約束ばかりだ。
 伝えたらダメだ。青花を傷つけるだけだ。そんなことはしたくない。俺は無力なんだから。
 分かってる。分かってる。……分かってるよ。
「好きだ……、青花」
 ――それなのに、息をするみたいに、言葉があふれ出てしまった。
 頭の中で考えていたこととは裏腹に、するりと。
 青花は涙を目にためながら、ガラス玉みたいに目を丸くしている。
 言ってはダメだと思っていたけど、不思議と何の後悔も焦りもない。
「青花が好きだ。今俺が抱いてるこの感情を、絶対に忘れたりしない」
 まるでひとり言みたいに告白をしてしまった俺は、今度は真剣な口調で気持ちを伝える。
「なんで……」