ひとつひとつ扉を閉めて、自分のことを嫌いでいれば……、何にも期待せずに生きていれば、これ以上傷つくことはないと思って。
 自分の周りの人がそれでどうなろうと、無関係だと、思ってた。
 だって俺は何もできないんだから。誰にも信じてもらえないんだから。無力なんだから。
 世界に言い訳するのは、反吐が出るほど、簡単だった。
「青花っ……!」
 商店街の明かりが近づくと、夕焼けだんだんの階段の端っこで、蹲っている女子のうしろ姿が見えた。
 俺は遠くから彼女の名前を思いきり叫ぶ。
 すると、水色のパーカー姿の青花が、そっとうしろを振り返った。
 まるでスローモーションみたいに感じた。
 ほとんど衝動的だった。涙で瞳を濡らした彼女が消えないように、俺はうしろから抱き締める。
「見つけた……」
 ハーハーと息を切らせながら、ほっとしたように囁く。
 青花は驚き固まっているようだったけれど、俺は構わず抱き締め続けた。
「ろ、禄……」
「心配した」
 道行く人の視線を感じるけれど、関係ない。
 青花の存在をたしかめるように、強く強く抱き締める。
 ただ、怖くて。この世界から青花がいなくなってしまったらと思うと怖くて、俺は彼女が残像にならないように腕に力を込めた。
「青花、戻ろう」
「戻ろうって……、どこへ?」
 うしろから青花の顔はよく見えないけれど、その声は震えている。
 だけど、俺は落ち着いた声で再び説得を試みる。
「病院に戻ろう。一週間、ずっと一緒にいるから」
「次に目が覚めたらいないくせに」
 少し語気を強める青花に、胸が痛くなる。
孤独への恐怖を全部ぶつけるように、青花は震えた声で、うつむいたまま言葉を連ねる。
「次はいつ目を覚ますか分からない……。おばあちゃんと二度と会えなくなった悲しみを引きずりながら、私はずっとずっとずっと、もう来るかも分からない朝を待つの。怖くない訳ないよ! もう逃げ出したいよ! こんな世界になるんなら、生きてたって意味がない!」
「青花……」
 青花は振り向いて、ぼたぼたと涙を流したまま、訴えかけるような瞳で俺を見つめる。
 その瞳から目が離せなくなって、俺はただ青花の言葉を全部受け止めることに集中した。