何か手掛かりがないかベッドを漁ろうとすると、机上にはメモの切れ端が置かれていた。
『禄は何も悪くないよ』
 ボールペンで、たった一言。走り書きみたいに書かれていた。
「何だよ、それ……」
 俺はそのメモをポケットにしまうと、走って病室を出た。
 ――青花、俺は、青花の弱さにどれだけ気づけていただろう。
 本当はちっとも、わかっていなかったんじゃないかな。
 外はもう真っ暗で、月が煌々と光り輝いている。青花が行きそうな場所を、全部探して回ろうと思った。
 走るのは苦手だけど、今だけは、何も苦しいと思わない。
 どれだけ酸素を消費しても、不思議とつらくない。
 青花を探し出す。それだけに全神経が集中している。
 俺は、バスに乗り込んで青花の家をまず目指した。
しかし、外から見ても人の気配は感じられない。
 乗車中、幸治さんのスマホにメッセージを残して、青花が行方不明であることを伝えてから、近くのゲームセンターや、漫画喫茶にも足を運んだ。
「すみません、一時間前くらいに、十代の髪の長い女の子が来ませんでしたか……!」
「いやー、見てないですね……」
「そうですか、ありがとうございます」
 店員ののんびりとした返答も待てずに、俺は手当たり次第青花が好きそうな場所に入って姿を探す。
 しかし、どこにも青花はいない。
 途方に暮れかけたそのとき、ふと、もしかして、という言葉とともに、ある場所が浮かんできた。
「夕焼けだんだん……」
 どうして、そこを一番に考えなかったんだろう。
 車の赤いテールランプが、立ち止まっている俺の横を通り過ぎる。
 ひゅっと風が駆け抜けて、俺はそれと同時に、夕焼けだんだんへ全速力で向かった。
「はぁ、はぁっ……」
 息が切れる。漏れた声が夜の闇に溶けていく。一時間走りっぱなしで、運動不足な脚の筋肉が、限界を迎えている。
 青花、俺は、君と出会うまで、ずっと自分のことしか考えずに、生きていたのかもしれない。
 自分を一切信じてくれなかった教師も、理不尽な理由で攻撃してきた木下も、味方になってくれずに離れていった伊勢谷も、俺の性格に辟易していた俊也も、子供が自分の思い通りにならないとヒステリーになる母親も、全部、自分の世界を閉ざしていい理由にしてた。