いつも、ずっと一緒にいてくれた。何があっても味方でいてくれた。
 私がどれだけわがままを言っても、可愛くない態度を取っても。
 あの、毛布みたいに温かい、優しい声で私を呼んでくれる人は、もう世界のどこにもいない。
『どんな季節も、青花に少しでも綺麗なものを見せてあげたいと思ってね』
私、あのとき、おばあちゃんにありがとうって、言ったっけ。
 おばあちゃんはいつも、私の幸せを一番に願ってくれていた。
ご飯を作ってくれたり、送り迎えをしてくれたり、禄とのことを心配してくれたり、朝の目覚めには必ず泣きそうな顔でそばにいてくれたり……。
どんな些細なことにも、ありがとうって伝えればよかった。
おばあちゃんの孫になれて幸せだって、言えばよかった。
 与えてもらうばかりで、私は何も返せていない。
 どうして、おばあちゃんの体調不良に気づいてあげられなかったんだろう。ずっとそばにいたのに、どうして……。
 取り返しのつかない後悔が、弱った心臓を締めつける。
「守倉先生! 鶴咲さんが発作を起こしてます……!」
「すぐに診察室に移動させて! お父さんはご一緒に」
 車椅子で運ばれる際中に、ちらっと禄の顔が視界に入った。
 彼は不甲斐なさと戦うように歯をぎゅっと食いしばりながら、私を見つめていた。
 ごめんね、禄は何も悪くないよ。またそんな顔、させちゃったね。
 私があんな約束、しちゃったからだね……。
 心の中で謝りながら、私は意識が遠のいていくのを感じていた。



 青花の容体が安定したのは、夜九時のことだった。
 外の待合室で青花が病室に戻ってくるのを待っていると、青花のお父さん――幸治さんがそばにやってきた。
「青花はさっき病室に戻って、眠っている。もう落ち着いたから、神代君ももう帰りなさい」
「はい……」
「心配かけたね」
 青花が苦手だと言っていた幸治さん。最初はどんなに怖い人かと思ったけれど、全然イメージとは違った。厳しそうだけれど、目の奥には優しさが滲み出ている。
 力なく返事をして、立ち上がろうとするけれど、足に力が入らない。
「あの大雨の日、駆けつけてくれて本当にありがとう」
「お、俺は何も……」
「神代君がいなかったら、母はひとりで凍えて亡くなっているところだった」
 無力な自分に打ちのめされているときにそんな言葉をかけられたら、涙腺が緩んでしまう。