手に残っているのは、人を愛することをまっすぐに描いた少女漫画五冊。
 この漫画のように、俺も自分の気持ちを素直に伝えてみてもいいのだろうか。
 春になったら、青花の気持ちをもっと聞いてみたいと、そんな風に思っていることは事実だ。
 ガラスの中で眠っている青花を見つめながら、俺は自分の中にある愛しい気持ちを、どうしたらいいのか考えあぐねていた。



 その翌週の祝日は豪雨だった。
 今日は青花の家に行って、おばあさんから頼まれた植物の搬入を手伝う日だというのに。
窓を開けていなくても、ザーッという雑音が部屋の中に流れ込んでくる。
 そっとカーテンを開けると、バケツをひっくり返したような景色が広がった。
「うわ、すごいな……」
 思わずひとり言が漏れてしまうほどの豪雨。
 こんな日はさすがに運転も危ないのではと思い、今日は中止かどうかを確認するため、青花の家に電話をかけてみた。
 しかし、三コール、四コール……とかけても、繋がらない。青花のお父さんは今日も仕事なのだろうか?
 何となく嫌な予感がして、俺はあともう一回かけても繋がらなかったら、家に行こうと思った。そして案の定、二度目のコールも繋がらない。
「大丈夫かな……」
 一気に心配になった俺は、上着を羽織りながら一階へと駆け足で下りた。
 血相を変えている俺を見て、昼飯を準備していた母親が、慌てた様子で声をかけてくる。
「ちょっと禄! どうしたの、まさか出かけようとしてるの?」
「うん、でもすぐ帰るから」
「バカ、道路が冠水でもしてたら危ないからやめなさい! どこ行くの!」
 玄関で靴ひもを結んでいる俺を、母親は無理やり引き止めようとする。
「クラスメイトのおばあさんがひとりで過ごしてて、心配なんだ」
「ええ? そんなこと言ったって……さすがに危ないでしょう!」
 困惑している母親を、俺は真剣な顔で説得する。
「大事な友達で……、今は入院してて家にいないから、俺が代わりに様子を見にいきたい。何かあったらすぐ連絡するから」
「だからって……!」
 母親は納得のいかない顔をしていたけれど、まっすぐな俺の目を見て諦めがついたのか、ひとつ大きなため息を吐く。
 今までの母親ならヒステリックになっていたかもしれないけれど、何とか冷静を保っているようだった。