俺は青花のことが好きだけど、青花はきっと友達として俺のことを大事に思ってくれている。だから最後まで、青花が望む関係を、壊したくないと思う。
「でもこうしてお見舞いに来てくれてるってことは、青花ちゃんのことを大事に思ってるんですよね……?」
「ま、まあ……」
 こういう話は苦手だ。
 何とか話題を逸らせないかと思ったけれど、そんな俺に板野さんはまっすぐな質問をしてきた。
「それ、青花ちゃんに伝えたんですか?」
「え?」
「大事に思ってるってこと」
 今度は探る感じではなく、真剣に疑問に思って聞いている様子だ。
面食らいながら「いや……」と歯切れの悪い返事をすると、板野さんは不思議そうに首を傾げる。
「私たちは普通の人より時間がかなり限られてるのに、伝えてないんですか?」
「つ、伝えるって言っても……」
「何でもいいんですよ。それが恋愛感情でも人間愛でも、思ってること全部、伝えた方がいいですよ」
 たしかに、そうだ。
 青花は、普通の人より時間が限られている。
 それなのに俺は、大切なことをちゃんと伝えられていない気がする。
 ……拒否されたらと思うと、怖くて。
「よかったら私のおすすめの少女漫画貸しますよ! ほらこれとか、すっごくピュアでまっすぐで最高なんです……!」
「少女漫画とか、今まで読んだことなかったな」
「何と! それはもったいなさすぎます! 人生損してますよ!」
 そのとき、看護師さんが部屋のドアをノックして、中に入ってきた。
「板野さん、診察のお時間です」
「あ、はーい」
 板野さんは明るく返事をしてから、俺に数冊漫画を貸してくれた。
「これとこれもおすすめです! 男性でも少女漫画は楽しめますよ!」
「ありがとう、読んで感想挟んでおく」
「し、師走さん、優しー……。青花ちゃんは少女漫画読めないって言って、読んでくれなかったから」
 急にじーんとした表情になる板野さん。青花の反応もすごく彼女らしくて、そのときの光景がありありと浮かんできて笑えた。
 少女漫画を全て受け取って、板野さんを見送ろうと手を振ると、彼女は最後に俺の目を見つめてこう言った。
「どんな愛かは知らないですけど、青花ちゃんはかなり師走さんのこと、〝好き〟だと思いますよ」
「え」
「進展あったら教えてくださいね」
 明るく爆弾を残して、板野さんは病室を出ていった。