大きな窓の外からは桜の花が少しずつ花を開かせていて、春が近づくことを知らせている。
 今元気に話しているこの子も、眠りにつくのだ。
 そう思うと、こうしている全ての時間が尊く儚いものに感じてくる。
 窓の景色を何となく眺めていると、何やら駐車場あたりが騒がしいことに気づいた。
 年代もバラバラの数人の男女が、何やら看板を掲げて訴えている。
「あれって……?」
 外を指さしながら板野さんに問いかけると、彼女が「あー」と少し気まずそうな声を出す。
「コールドスリープの反対運動的なやつらしいですよ。私たちを解放しろって訴えてるんです」
「え、そんなことになってるの?」
 思わず大きな声を出すと、彼女は腕を組みながら眉を顰める。
「ほんと、いい迷惑ですよね。自分で判断した処置なんで、正直放っておいてほしいです」
 まだ中学生なのに、達観した感想を述べる彼女。
 ニュースやネットで何回かこういった訴えを見たことはあったけれど、まさかこんな行動に出る人がいるだなんて……。
 看板には、【今すぐ目覚めさせて】【コールドスリープは残酷な処置】【人権侵害! 解放せよ】【騙されるな‼】という言葉が太字で荒々しく書かれている。
 あの人たちは、実際にコールドスリープの処置を受けたのかもしれないし、親族が悲しい目にあったのかもしれない。
 彼らの行動を何も否定できないけれど、とても複雑な気持ちになる。
 だって青花たちは、一日でも長く生きるために、こうして眠っているのに。
「あの、私もうひとつ聞きたいことがあったんですけど……!」
 窓の外を見て眉間に皺を寄せていた俺に、板野さんは突然話題を変えたそうにして、話しかけてきた。
 少しもじもじした様子で、でも聞きたくて仕方ないという顔をしている。
「青花ちゃんと師走さんって、付き合ってるんですか……?」
「えっ、違うよ」
「えっ、違うんですか⁉」
 即答して否定すると、板野さんは俺以上に目を丸くして驚きの声を上げた。驚いたというよりも、期待が外れてショックを受けているという感じだ。
 どうしてそんな誤解が生まれているのか分からず、気まずい空気が一瞬流れる。
 板野さんは「なんだ、そっか……、えー」と残念そうに小さくつぶやきながら、自分を納得させているようだ。