「春に会えるのが、楽しみね」
 青花に語りかけるように話すおばあさん。
 その言葉にこくんと静かに頷いて、桜の下で元気に笑う青花を想像した。

 翌日。今日も学校帰りに病院に立ち寄ると、珍しく中学生くらいの女の子が、ベッドに腰かけて読書をしていることに気づいた。
 仕切りのカーテンも開けっ放しだったので、俺は一応「失礼します」と声をかけてから病室に入る。
 すると、みつあみ姿のその女の子は、バッと俺の方を驚いたように振り返り、目を丸くした。
 急に入ったので、驚かせてしまっただろうか。
 俺は頭の上に疑問符を浮かべながら、青花のそばに丸椅子を移動する。
 いたるところに管を通されながら、ガラス越しに眠り続ける青花は、相変わらず白雪姫みたいに綺麗で、切ない。
 何も言わずに黙って見つめていると、隣から「あの……」という小さな声が聞こえてきた。
 驚き顔を上げると、みつあみの女の子が、緊張した様子でこっちを見ている。
「あの、もしかして、し、しし、師走さんですか……」
「え……、あ、そうだけどなんで……」
「あ、私、青花ちゃんと友達で板野結衣って言います! 同じコールドスリープ患者なんですけど。あ、聞きたいのはそこじゃないですよね。滅多に同世代の男子がお見舞いに来ることなんてないから、何となく師走さんかなって思いまして……!」
 そういえばいつか青花が、同室に仲のいい年下の女の子がいると言っていた気がする。
 俺も人見知りだけど、俺以上に慌てている板野さんを見たら、少し気持ちが落ち着いてきた。
「あ、あの、師走さんが作ったゲーム、すごく面白かったです……!」
「あ、ありがとう……。かなり低コストゲームだけど……」
「いえ、青花ちゃんがハマってる理由が分かりました!」
 緊張しながらも一生懸命伝えてくれる様子に、嬉しくなる。
 青花が可愛がっている理由も何となく分かる。すごく素直で、言葉に嘘がない気がするから。
「私、青花ちゃんとは夏と秋の二回だけ目覚める時期がかぶってるんです。それで仲良くなりました。青花ちゃんは次いつ目を覚ますんですか?」
「次は四月一日だよ」
 無邪気に質問してくる板野さんは、きっとまだ青花の現状を知らないんだろう。
 そのことにチクッと胸が痛みながらも、俺から伝えることではないのでどうにもできない。