でも、禄の手は想像以上に温かくて、優しくて、離さないでほしいと瞬時に思ってしまった。
「春も待っていていい? 青花の目覚めを……」
「……なんで、ダメだよ、きっと、禄もつらいよ。重くなるよ」
「どうして青花だけ、ひとりでつらくならなきゃいけないの」
 どうして、だなんて、そんなこと聞かないで。
 そんな風に心の内側に入られたら、私は、禄なしの世界が怖くなってしまう。
 でももう、いいのかな。弱くなってもいいのかな。今だけ、寄りかかってもいいのかな。
 悲しいことに耐えるのは、ひとりより二人の方が、どうして楽なんだろう。悲しみが減っている訳ではないのに、人の心は不思議だ。
 柔らかな雪が、禄の手の甲に落ちてきて、体温で溶けて消えた。
 こんな風に、この悲しみも消えてしまえばいいのに。
「禄、本音を言ってもいい……?」
「うん」
 私の言葉に、禄は涙が出るほど優しい声で頷く。
 だから私は、今一番聞きたいことを、彼に問いかけてしまいたくなった。
「永久コールドスリープから目覚めても、またそばにいてくれる……?」
「うん、そばにいるよ」
 とうとう本心を吐き出した私を、禄は全部受け止めてくれた。
 彼はどうしてこんなに、私に全力で向き合ってくれるんだろう。
 貴重なゲーム友達だから? それとも、同情心だけでいてくれているの?
 私と同じような意味での〝好き〟で、一緒にいてくれてる?
 今はまだ怖いから、春になったら、聞いてみてもいいだろうか。
 それまで禄を夢に見ながら、きっと勇気を蓄えておくから。
「雪、降ってるけど、今日も夕焼けだんだんまで、送りたい……」
 私のわがままを聞いても、禄は目を優しく細めて頷いてくれた。
 本当は私がいつもコンビニ目当てで見送っていた訳じゃないこと、禄は気づいていたのかな。
 思い出のお別れの場所。永久コールドスリープから目覚めたその世界でも、どうかあの場所は残っていてほしい。
 私たちは、何も確実な約束ができないまま、手を繋いで夕焼けだんだんを目指した。
 真っ白な雪が騒々しい世界を包み込んで、このときだけ、二人きりの世界にしてくれているようだった。