おかしいな。全部見たはずなのに……水戸さんは、かくれんぼが上手なのか?
「いや、そんなわけないよな」
僕はなにを考えているんだ。
一旦冷静になって考えてみよう。
校舎の壁に手をついて、ふう、と息を吐く。
「ゴホッゴホッ……」
すると静寂な空気を打ち破るように聞こえてきた、咳き込むような声。
それは、向こう側からやってきた。
「校舎の裏に誰かいる……?」
息を飲んで足を進めた。そうしたら、校舎裏の大きな木のそばに隠れるようにしていたのは。
「……水戸さん?」
やっぱり、彼女だった。
けれど、少し様子がおかしくて。
「あのっ、水戸さん……」
どうしたんだろう。心配になって駆け寄った。
「……牧野、くん……」
木の幹に背を預けながら僕を見上げる彼女の顔は、青ざめているようだった。
「ど、どうしたの……?」
今日は、寒くない。むしろ少し蒸し暑いほどで。それなのにこんな中、青ざめるなんて。体調が悪いとしか思えない。
「大丈夫?! いやっ、大丈夫じゃないよな……誰か……せ、先生呼んで、く──」
慌てた僕は、立ち上がろうと思ったが、彼女の手が僕を引き止めた。
「やめて……誰も、呼ばないで」
そうして彼女の口から現れたのは、とてもとても弱々しい声だった。
そして、触れられた手首に残る冷たい感触。
「……水戸さん」
僕は、思わず息を飲んだ。
こんな暑い日に彼女の体温はすごく冷たくて。
「ちょっと喘息が出ちゃっただけだから……」
〝小春ちゃん、いつも体育だけは見学だよね。喘息持ちだからって言ってたよ〟
急速に手繰り寄せられた、さきほどまでの会話。
これがただの喘息なら、の話だ。
「で、でも……」
これは、見るからに緊急事態のようで。
それなのに彼女は、
「ほんとに、大丈夫だから……」
なんとしても僕を行かせないように引き止める弱々しい手のひらで、僕を掴む。
「……お願い、牧野くん」
苦しそうに顔を歪めているのに。
引き止められる手を振り切ってでも助けを呼ばなきゃいけないのに。
そこまで懇願されると、動けなくなる。
「……分かった、行かないから」
気がつけば僕は、そんな返事をしていた。
それを聞いた水戸さんは、苦しそうにしながらも安堵したように、僕の手首を掴んでいた手を解いた。
「ごめんね、牧野くん」
どうして彼女が謝るんだろう。
謝られることはしていない。
けれど、疑問がひとつ湧いた。