***
きっと、今でも一緒に歩けるはずだった。
あんなにもめなくてもよかった。僕らは似た者同士だったから、『バカにされること』を恐れてお互いを傷つけあっていた。
その笑顔に触れることは出来なくても、《友人》としてなら、側にいれるはずだった。
今ならもっと上手く出来るはずだ。
アイツがやっていたことは、僕を傷つけながら、救援ようとしていた。
あの子はずっと笑っていなかった。僕に対して、ちゃんと距離感を見つけていた。遠ざけようとしていた。
あの日、誓いは間違ってなかった。自分のルールは間違っていなかった。
アイツの痛みも、あの子の涙も、あの子の彼の怒りだって──僕を成長させてくれたから。
もう、彼らとの関係をどうにかしようだなんて思わない。
次、僕と関わってくれている《友人》のために。
この決意を、使うとしよう。
僕の青春は終わったんじゃない。
──この青春はまだ、始まってすらないのだから。
***
薄々と分かっていた。僕は恋をすることで自分が傷つくことをただ恐れていただけだった。
あの子を傷つけてから、異性なんて気に止めない日々を送っていた……それは、あの子よりいい子が居ない、なんて言い方をすれば失礼だと思われるだろうけど、別にいい。あの子のことがそれだけ好きだったのだから。
ずっと、僕はそう思っていた。しかし、あの子につけられた〝後悔〟の傷跡が無意識のうちにそう思わせていたかもしれない。
どういうことかと言うと、僕はあの子以外は異性として見ていなかったということ、そして、そう思っていたのは誰かを異性としてみることによって〝好き〟になって傷つくのが怖かったって意味なのだ。
しかし、それで悪いことが起きたわけではない。
異性として見ることをしなくなったことで、スムーズに会話することが出来るようになった。師匠やだんちょーがいい例だろう。
そして、これは現在にもよい影響があり、僕は割りとよい高校生活一年目を送ることになった。
時間を戻して、二日目は少し僕の態度が変わってしまったというくらいで、お開きとなった。
ここからが三日目。この日はオクさんの家ではなく、よく行くことがあったゲームセンターに行くことになった。
「──で、遅れてしまったと」
「すんませんでしたあぁぁぁ! 星崎ゆう──ほぎゃあぁぁぁぁ‼」
古いゲームセンター内に響くオクさんの汚い悲鳴。奏人がオクさんに柔道の関節技─試合では禁止されている─の足緘をかけたからだ。それにしても、奏人は足がすごく速かったり、柔道の技を使えたり何かとすごいのでは。
それにしても、オクさんが今にも天に召されそうな顔をしているのは僕の気のせいだろうか。
「……」
あっ、召されたね。
ぶくぶくと泡を吹いているオクさん。奏人はひと仕事終えたぜ、とでも言いたげな顔をしている。いや、君すごいね。ター○ネーターより殺人早いんじゃない?
そんな茶番はともかく、意識を取り戻したオクさんはそれから数分後、ぴんぴんしながらリズムゲームをしていた。
ちなみに、その前に僕らはレーシングゲームをしていたのだけど、それに僕は負けて罰ゲームとして全員分のジュースを買っていた。この当時は貯金なんてしていなかったから、おかげで財布はすっからかんだ。
「おー、お帰り悠真。終わったらくれよ」
器用にもこちらを見ながら、指を高速で動かすオクさん。今は音ゲーをやっているから分かるがオクさんは相当上手いと思う。指の動きが尋常じゃない。
音ゲーを終えたオクさんは、僕からの奢りのジュースを受け取り、堪能していた。
ここのゲームセンターはかなり年季がはいっているように見えるが、それなりに最新のゲームも多かった。
「……あれ? 師匠やだんちょーたちは?」
「あっ、いねぇな。アイツら、どこ行ったんだ?」
オクさんは、今思い出したように三人のことを探した。しかし、聞き覚えがありすぎる笑い声が聞こえてきて案外、早く見つけることができた。
「ちょっ、速水あんたやばないっ? そんなクレーンゲーム上手かったなんて」
「すごいすごい! 奏人天才! 次はアレ! あれとって!」
「おう、任せろ」
三人はクレーンゲームで盛り上がっていた。いやいや、奏人まじで何者なの!? すごすぎるでしょ。才能秘めすぎでしょ。
「あっ、高野にオク! あんたらもこれ持ってや!」
師匠に荷物持ち係に任命される僕とオクさん。持ちやすいようにこちらに景品を向ける配慮は完璧なのだが、いかんせん、数が多すぎるし、これじゃあ、フェアじゃない。この考えはオクさんも同感だったようだ。
「おいこら美秋。悠真はともかくよ、俺はやめろや」
この人しばいていいかな?
とんでもない発言をするオクさんにジト目を送る。
「よしっ、悠真。あんたもっと持て! 文化部のあたしらにはキツすぎるっ!」
師匠もオクさんの悪ノリにのらないでくれるかな? なんで巨大なぬいぐるみがこんなにあるの? 僕の荷物、持ってきたカバンじゃなくてぬいぐるみがメインになってるけど。
よっつも持たされたので、僕はだんちょーに言った。一か八か師匠を溺愛する彼女だがさすがに──
「男なんだから持ってあげなよ。隆司や奏人なんてもっと持ってるよ?」
と、女尊男卑になりつつある世の中に心のなかで舌打ちしながら、これは筋トレだと暗示をかけて、荷物を持った。
なお、このぬいぐるみの荷物持ちが翌日に響いたことは言うまでもない。
今から、その翌日の話になるが、その日は、一昨日やった勉強会の続きでもあった。春休み最終日である明明後日にはスポッチャに行くことになり、それに向けて、春休みの課題を終わらせようということになった。
開催場所はいつも通り、オクさんの家。
僕もそうだが初日の方は皆ファッションにも気合いをいれていたが、最近はラフな格好が多くなった。僕はオシャレといってもたかがしれているので、いつも通り、Tシャツにカーディガン、チノパンという春秋専用の一般的な格好だ。
課題が終わっている僕は、師匠に頼まれたこともあって、また文系科目を教えることに専念した。
たまにだけど、だんちょーや奏人も教えてとやってくることがあり、僕よりもレベルが高い彼女らの問題に少し、頭をひねらせながら、解くことができた。
「……オクさん、その漢字間違ってるよ」
「マジか。わりぃ、消しゴムとってくれ」
オクさんがやった漢字のミスは僕が昔、やってしまったミスで覚えていたため指摘ができた。
「だん……星崎さん、そこの文法間違ってるんじゃないかな? なんか訳したら変だよ」
「あっ、本当だ。ありがとう高野君」
「悠真、お前は松川や隆司に教えてやれ」
だんちょーに指摘したら、奏人に怒られました。お似合いだなぁと思うほどには僕は彼らのような友達と恋人の境界線を上手く使い分けれることに憧れていた。
こうして、約三時間、休憩を挟みながら、僕らは課題を進め、ようやく終わらせることができた。
春休みの終わりは、徐々に近づいていっていることを僕らは見て見ぬふりをしていた。
きっと、今でも一緒に歩けるはずだった。
あんなにもめなくてもよかった。僕らは似た者同士だったから、『バカにされること』を恐れてお互いを傷つけあっていた。
その笑顔に触れることは出来なくても、《友人》としてなら、側にいれるはずだった。
今ならもっと上手く出来るはずだ。
アイツがやっていたことは、僕を傷つけながら、救援ようとしていた。
あの子はずっと笑っていなかった。僕に対して、ちゃんと距離感を見つけていた。遠ざけようとしていた。
あの日、誓いは間違ってなかった。自分のルールは間違っていなかった。
アイツの痛みも、あの子の涙も、あの子の彼の怒りだって──僕を成長させてくれたから。
もう、彼らとの関係をどうにかしようだなんて思わない。
次、僕と関わってくれている《友人》のために。
この決意を、使うとしよう。
僕の青春は終わったんじゃない。
──この青春はまだ、始まってすらないのだから。
***
薄々と分かっていた。僕は恋をすることで自分が傷つくことをただ恐れていただけだった。
あの子を傷つけてから、異性なんて気に止めない日々を送っていた……それは、あの子よりいい子が居ない、なんて言い方をすれば失礼だと思われるだろうけど、別にいい。あの子のことがそれだけ好きだったのだから。
ずっと、僕はそう思っていた。しかし、あの子につけられた〝後悔〟の傷跡が無意識のうちにそう思わせていたかもしれない。
どういうことかと言うと、僕はあの子以外は異性として見ていなかったということ、そして、そう思っていたのは誰かを異性としてみることによって〝好き〟になって傷つくのが怖かったって意味なのだ。
しかし、それで悪いことが起きたわけではない。
異性として見ることをしなくなったことで、スムーズに会話することが出来るようになった。師匠やだんちょーがいい例だろう。
そして、これは現在にもよい影響があり、僕は割りとよい高校生活一年目を送ることになった。
時間を戻して、二日目は少し僕の態度が変わってしまったというくらいで、お開きとなった。
ここからが三日目。この日はオクさんの家ではなく、よく行くことがあったゲームセンターに行くことになった。
「──で、遅れてしまったと」
「すんませんでしたあぁぁぁ! 星崎ゆう──ほぎゃあぁぁぁぁ‼」
古いゲームセンター内に響くオクさんの汚い悲鳴。奏人がオクさんに柔道の関節技─試合では禁止されている─の足緘をかけたからだ。それにしても、奏人は足がすごく速かったり、柔道の技を使えたり何かとすごいのでは。
それにしても、オクさんが今にも天に召されそうな顔をしているのは僕の気のせいだろうか。
「……」
あっ、召されたね。
ぶくぶくと泡を吹いているオクさん。奏人はひと仕事終えたぜ、とでも言いたげな顔をしている。いや、君すごいね。ター○ネーターより殺人早いんじゃない?
そんな茶番はともかく、意識を取り戻したオクさんはそれから数分後、ぴんぴんしながらリズムゲームをしていた。
ちなみに、その前に僕らはレーシングゲームをしていたのだけど、それに僕は負けて罰ゲームとして全員分のジュースを買っていた。この当時は貯金なんてしていなかったから、おかげで財布はすっからかんだ。
「おー、お帰り悠真。終わったらくれよ」
器用にもこちらを見ながら、指を高速で動かすオクさん。今は音ゲーをやっているから分かるがオクさんは相当上手いと思う。指の動きが尋常じゃない。
音ゲーを終えたオクさんは、僕からの奢りのジュースを受け取り、堪能していた。
ここのゲームセンターはかなり年季がはいっているように見えるが、それなりに最新のゲームも多かった。
「……あれ? 師匠やだんちょーたちは?」
「あっ、いねぇな。アイツら、どこ行ったんだ?」
オクさんは、今思い出したように三人のことを探した。しかし、聞き覚えがありすぎる笑い声が聞こえてきて案外、早く見つけることができた。
「ちょっ、速水あんたやばないっ? そんなクレーンゲーム上手かったなんて」
「すごいすごい! 奏人天才! 次はアレ! あれとって!」
「おう、任せろ」
三人はクレーンゲームで盛り上がっていた。いやいや、奏人まじで何者なの!? すごすぎるでしょ。才能秘めすぎでしょ。
「あっ、高野にオク! あんたらもこれ持ってや!」
師匠に荷物持ち係に任命される僕とオクさん。持ちやすいようにこちらに景品を向ける配慮は完璧なのだが、いかんせん、数が多すぎるし、これじゃあ、フェアじゃない。この考えはオクさんも同感だったようだ。
「おいこら美秋。悠真はともかくよ、俺はやめろや」
この人しばいていいかな?
とんでもない発言をするオクさんにジト目を送る。
「よしっ、悠真。あんたもっと持て! 文化部のあたしらにはキツすぎるっ!」
師匠もオクさんの悪ノリにのらないでくれるかな? なんで巨大なぬいぐるみがこんなにあるの? 僕の荷物、持ってきたカバンじゃなくてぬいぐるみがメインになってるけど。
よっつも持たされたので、僕はだんちょーに言った。一か八か師匠を溺愛する彼女だがさすがに──
「男なんだから持ってあげなよ。隆司や奏人なんてもっと持ってるよ?」
と、女尊男卑になりつつある世の中に心のなかで舌打ちしながら、これは筋トレだと暗示をかけて、荷物を持った。
なお、このぬいぐるみの荷物持ちが翌日に響いたことは言うまでもない。
今から、その翌日の話になるが、その日は、一昨日やった勉強会の続きでもあった。春休み最終日である明明後日にはスポッチャに行くことになり、それに向けて、春休みの課題を終わらせようということになった。
開催場所はいつも通り、オクさんの家。
僕もそうだが初日の方は皆ファッションにも気合いをいれていたが、最近はラフな格好が多くなった。僕はオシャレといってもたかがしれているので、いつも通り、Tシャツにカーディガン、チノパンという春秋専用の一般的な格好だ。
課題が終わっている僕は、師匠に頼まれたこともあって、また文系科目を教えることに専念した。
たまにだけど、だんちょーや奏人も教えてとやってくることがあり、僕よりもレベルが高い彼女らの問題に少し、頭をひねらせながら、解くことができた。
「……オクさん、その漢字間違ってるよ」
「マジか。わりぃ、消しゴムとってくれ」
オクさんがやった漢字のミスは僕が昔、やってしまったミスで覚えていたため指摘ができた。
「だん……星崎さん、そこの文法間違ってるんじゃないかな? なんか訳したら変だよ」
「あっ、本当だ。ありがとう高野君」
「悠真、お前は松川や隆司に教えてやれ」
だんちょーに指摘したら、奏人に怒られました。お似合いだなぁと思うほどには僕は彼らのような友達と恋人の境界線を上手く使い分けれることに憧れていた。
こうして、約三時間、休憩を挟みながら、僕らは課題を進め、ようやく終わらせることができた。
春休みの終わりは、徐々に近づいていっていることを僕らは見て見ぬふりをしていた。