──
それからというもの、僕らはお菓子とジュースを片手に雑談を交わしていた。
「それにしてもよ、悠真って印象変わったよな。中学校間では幼い感じだったのに」
突然、奏人がそんなことを言い出したのでびっくりした。
奏人とはかれこれ二年ほどの付き合いでそれなりに僕のことを知っている。僕が髪を伸ばしたことが無かったからか、そんなに印象は変わったのだろうか。
「……そうかな。僕はあまり変わっていないと思うけど。髪の毛伸ばしても天然パーマは治らないんだよね。しかも、ストレートも混じってるってのが微妙だし」
「なら、ストレートパーマあてたらいいじゃん。あたしもやってるよっ! ほら、あたしって元々くせっ毛だから当てないとうねーんってなるからさっ!」
師匠がくせっ毛だなんて僕は初めて知った。さらさらと風になびくストレートのロングヘアーは正直、ちょっと羨ましかったから。
「……ストレートパーマか。あてたいけど、なんかね。僕がやるとチャラくなるかも」
「そんな心配してんのか? 大丈夫だって。悠真がチャラくなることなんかないからな」
オクさんはチャラくないと言うが、両耳にみっつずつピアスつけている人からすれば、そんなのチャラいの「ち」の文字にもならないのだろうか。
「……オクさんのピアスってかっこいいよね」
「あぁ、これか? ははっ、ありがとうよ。大切な人からもらったものでよ。大事にしてるんだよな」
そう言って、みっつの内、ひとつのロザリオのついたピアスを指で優しく触れた。その顔はどこか遠くを見るような懐かしい人を思い浮かべるような顔をしていた。
少ししんみりとした空気が漂ったので、僕は話題を変えた。
「……ところで、皆は高校の課題とか終わった?」
「ぜんっぜん! 全く終わらないよ。まさか高野君終わったの?」
「……うん、学校が違うと課題の量とかも全然違うと思うから。そっか、だん……星崎さんは終わってないか」
ついくせで声にだして「だんちょー」と呼びそうになり、僕はだんちょーと奏人に睨まれた。目付きが怖いよ。人に向ける目じゃないって。
「あたしもまだかな。高野あんた、教えてよ。あたしより勉強出来るでしょ?」
「……無理なことはないけど」
「なら教えてよ。春休みは基本オクのところで遊ぶからさ」
僕はそれを聞いて驚いた。今日きりかと思っていたけど、それは違うようだ。
「いや、美秋俺ん家に入り浸ろうとするんじゃねぇよ。ニート女は帰れ帰れ!」
「は? 隆司美秋のこといじめるなや。調子乗ってると殺すよ?」
オクさんの言葉に師匠は下手な嘘泣きをし、溺愛するだんちょーが援護した。それにしてもだんちょー、口が悪すぎでは。
「なにこれ、俺こんなボロクソに言われること言ったっけ?」
「言ったね」
「ざまぁw」
「あーん、あたし悲しいー。えーんえーん。……チラッ」
オクさんに容赦ない援護射撃のような言葉。奏人はここぞとばかりに人のことを煽るんじゃない。師匠は同情させるために僕の方ちらっと見るのはやめてね。
「悠真ー! こいつら鬼だー! 俺のこといじめてくるー! いじめアンケートに書いてやるー!」
「……僕に助けを求めないでよ……。ごめんオクさん。まだ死にたくないから援護できないよ……」
「畜生だ! こいつ悪魔じゃねぇか! いいもーんだ。ボロクソに言われて何が悪い!」
僕はオクさんの開き直りに微苦笑をせずにはいられなかった。
やけくそと言わんばかりにオクさんはパーティー開けしているポテトチップスをばりばりと食べた。
「んー、うす塩だとなんか物足りないな。悠真はうす塩派か」
「……そうだね。ごめんオクさん。もしかして、コンソメ派だった?」
「や、のり塩。濃い味付けの方が好きなんだよな」
「あたしものり塩だなっ!」
「俺はコンソメ。これしか勝たん」
「私もコンソメー!」
ポテトチップスの味付けの好みはやはり、濃い味付けの方が好きな人が多いらしい。僕と同じ人は誰もいなかった。しかし、
「たまにはうす塩もいいよな。シンプルだけど美味いから」
やはり、美味しいのは美味しいらしい。
好みに合わなくとも、口に合うようで安心した。
お菓子を食べつつ、僕らはUNOやオクさんの家にあったボードゲームをやった。
お題で懐かしいと思えるような中学の頃の思い出やオクさんの一発芸、僕のアカペラライブ、奏人の電車の知識。
色々あって少し恥ずかしい思いもしたけれど、そんなことをぶっ飛ばすくらい楽しい時間を過ごした。
昨日までの浪費していくだけの時間が嘘みたいだ。
楽しい。心底そう思えたのは、いつぶりだろうか。直近の記憶では、もうライブのときくらいだ。
でも、今はあの鳴り止まない歓声よりも、興奮して高鳴る心音よりも、僕をずっと楽しくさせている。
友人との日常がこれほど楽しいものだと思ったことはなかった。
今までが、悪かっただけなのか。それとも、今からがよくなったのか。
分からないけど、僕は今日を楽しむことが出来た。
それからというもの、僕らはお菓子とジュースを片手に雑談を交わしていた。
「それにしてもよ、悠真って印象変わったよな。中学校間では幼い感じだったのに」
突然、奏人がそんなことを言い出したのでびっくりした。
奏人とはかれこれ二年ほどの付き合いでそれなりに僕のことを知っている。僕が髪を伸ばしたことが無かったからか、そんなに印象は変わったのだろうか。
「……そうかな。僕はあまり変わっていないと思うけど。髪の毛伸ばしても天然パーマは治らないんだよね。しかも、ストレートも混じってるってのが微妙だし」
「なら、ストレートパーマあてたらいいじゃん。あたしもやってるよっ! ほら、あたしって元々くせっ毛だから当てないとうねーんってなるからさっ!」
師匠がくせっ毛だなんて僕は初めて知った。さらさらと風になびくストレートのロングヘアーは正直、ちょっと羨ましかったから。
「……ストレートパーマか。あてたいけど、なんかね。僕がやるとチャラくなるかも」
「そんな心配してんのか? 大丈夫だって。悠真がチャラくなることなんかないからな」
オクさんはチャラくないと言うが、両耳にみっつずつピアスつけている人からすれば、そんなのチャラいの「ち」の文字にもならないのだろうか。
「……オクさんのピアスってかっこいいよね」
「あぁ、これか? ははっ、ありがとうよ。大切な人からもらったものでよ。大事にしてるんだよな」
そう言って、みっつの内、ひとつのロザリオのついたピアスを指で優しく触れた。その顔はどこか遠くを見るような懐かしい人を思い浮かべるような顔をしていた。
少ししんみりとした空気が漂ったので、僕は話題を変えた。
「……ところで、皆は高校の課題とか終わった?」
「ぜんっぜん! 全く終わらないよ。まさか高野君終わったの?」
「……うん、学校が違うと課題の量とかも全然違うと思うから。そっか、だん……星崎さんは終わってないか」
ついくせで声にだして「だんちょー」と呼びそうになり、僕はだんちょーと奏人に睨まれた。目付きが怖いよ。人に向ける目じゃないって。
「あたしもまだかな。高野あんた、教えてよ。あたしより勉強出来るでしょ?」
「……無理なことはないけど」
「なら教えてよ。春休みは基本オクのところで遊ぶからさ」
僕はそれを聞いて驚いた。今日きりかと思っていたけど、それは違うようだ。
「いや、美秋俺ん家に入り浸ろうとするんじゃねぇよ。ニート女は帰れ帰れ!」
「は? 隆司美秋のこといじめるなや。調子乗ってると殺すよ?」
オクさんの言葉に師匠は下手な嘘泣きをし、溺愛するだんちょーが援護した。それにしてもだんちょー、口が悪すぎでは。
「なにこれ、俺こんなボロクソに言われること言ったっけ?」
「言ったね」
「ざまぁw」
「あーん、あたし悲しいー。えーんえーん。……チラッ」
オクさんに容赦ない援護射撃のような言葉。奏人はここぞとばかりに人のことを煽るんじゃない。師匠は同情させるために僕の方ちらっと見るのはやめてね。
「悠真ー! こいつら鬼だー! 俺のこといじめてくるー! いじめアンケートに書いてやるー!」
「……僕に助けを求めないでよ……。ごめんオクさん。まだ死にたくないから援護できないよ……」
「畜生だ! こいつ悪魔じゃねぇか! いいもーんだ。ボロクソに言われて何が悪い!」
僕はオクさんの開き直りに微苦笑をせずにはいられなかった。
やけくそと言わんばかりにオクさんはパーティー開けしているポテトチップスをばりばりと食べた。
「んー、うす塩だとなんか物足りないな。悠真はうす塩派か」
「……そうだね。ごめんオクさん。もしかして、コンソメ派だった?」
「や、のり塩。濃い味付けの方が好きなんだよな」
「あたしものり塩だなっ!」
「俺はコンソメ。これしか勝たん」
「私もコンソメー!」
ポテトチップスの味付けの好みはやはり、濃い味付けの方が好きな人が多いらしい。僕と同じ人は誰もいなかった。しかし、
「たまにはうす塩もいいよな。シンプルだけど美味いから」
やはり、美味しいのは美味しいらしい。
好みに合わなくとも、口に合うようで安心した。
お菓子を食べつつ、僕らはUNOやオクさんの家にあったボードゲームをやった。
お題で懐かしいと思えるような中学の頃の思い出やオクさんの一発芸、僕のアカペラライブ、奏人の電車の知識。
色々あって少し恥ずかしい思いもしたけれど、そんなことをぶっ飛ばすくらい楽しい時間を過ごした。
昨日までの浪費していくだけの時間が嘘みたいだ。
楽しい。心底そう思えたのは、いつぶりだろうか。直近の記憶では、もうライブのときくらいだ。
でも、今はあの鳴り止まない歓声よりも、興奮して高鳴る心音よりも、僕をずっと楽しくさせている。
友人との日常がこれほど楽しいものだと思ったことはなかった。
今までが、悪かっただけなのか。それとも、今からがよくなったのか。
分からないけど、僕は今日を楽しむことが出来た。