そんなことを思い出しながら、私が下着を丸々替えて戻ると

「おかえり」

と樹さんが声をかけてくれた。

(お、おかえ……)

家族ですらおかえりと言われたのはだいぶ前。
それを、好きになりたてホヤホヤの男性……それもハイスペック……に言われると、どうしようもなく気恥ずかしい。

「ど、どうも……」

平静を装いながら樹さんに近づいて気づいた。
すでに、冬は私をコタツムリにするローテーブルの上に、私が頼んだオシャレ系テイクアウトが並んでいた。

(いつの間にか受け取ってくれたのか……!)

自分宛の荷物を、彼氏に受け取られるのも、気恥ずかしい。
家族に代わりに受け取ってもらうのとは訳が違う。

「あ、ありがとうございます」
「俺が受け取って良かったよ」
「え?」
「気にしないで」
「はぁ……」

そんなやりとりをしながら、樹さんは可愛いケーキも並べ始めた。
私に心当たりがない。

「このケーキは、樹さんが?」
「手土産1つも持ってこない男だと、思われたくないから」
「そ、そうですか……」

(どうしてこの人は、いちいち……!)

樹さんの回答は、いつも私を混乱させる。
平静を装おうとする私の心の壁が、樹さんと会話をする度に崩れそうになる。
それが……怖い。

「と、とりあえず食べましょうか」

私が話題を逸らそうとした時、樹さんが耳元で

「それだけ?」

と囁いてくる。

「それだけ……とは……」
「何も言ってくれないの……?」

(耳元で囁くのは反則です……!)

「……ありがとうございます……」
「それだけ?」
「好き……です」
「何が?」
「…………ケーキ…………」
「だけ?」
「…………樹さんと、このケーキ、好きです!」

私の回答に満足したのか、樹さんは耳たぶの下に、わざと音をたてるキスをしてきた。

「食べようか、優花」
「……はい……」

すでに、樹さんの吐息とセリフの魔力で、私の体力は一気に半減した。
まだ、樹さんが来て30分も経っていない。

(こ、この先私、どうなるんだ……)

「お皿、用意しますね」
「あ、ちょっと待って」
「はい?」

私が振り向くと、樹さんはまるで、雑誌の1ページになってもおかしくないほど、綺麗に並べられていたローテーブルの上を指差す。

「写真撮る?」
「……はい……」

私の思考は、もう樹さんにはお見通しのようだ。