それから、どういう会話の流れになったのかは、覚えていない。
気がつけば、お付き合いを始めて1ヶ月目を、私の部屋で祝おうということになっていた。

どうして樹さんの部屋にしなかったのか、という理由はよく覚えている。
開業した病院と同じ建物にあり、よく看護師の人が勉強も兼ねて入り浸っているため、2人きりでは過ごせないかもしれない……とのことだった。

「すごく勉強熱心なんですね」

私が言うと

「うーん……そうだな……」

と、樹さんが歯切れが悪い返事をした。

(深入りするべきじゃないな)

私はそう思った。
何かを隠そうとする人に首を突っ込むと、ろくなことがない。
秘密は秘密のままが丁度いい。
私がこれまで約40年ぽっち生きてきた中で培って来た、心穏やかに生きるための手法。

そんなこんなで、あっという間に秘密基地のような、私のカオス部屋での家デートというものが、3週間後に確定してしまった。

「楽しみだ」

と言ってくれた樹さんには大変申し訳ないが、この時の私を支配していたのは、いかにあのカオス部屋をましにするか……ということだけになっていた。